2012年11月18日日曜日

[映画] ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

2012年11月17日(土)8時の回で見ました。
ネタバレありますのでご注意下さい。



























何故かオープニングにスタジオ・ジブリ

オープニングは「巨神兵東京に現れる」。これ、最初に入れる事で本編の見方に影響を与えた面があると思う故に見たくなかったですね。無論演出側は分かっての「犯行」なんでしょうけど、何か納得し難いものを感じます。

「守破離」の「離」なのか?

本編は前作より14年後の世界。冒頭、何故か宇宙空間を漂う宗教的シンボルにしか見えない物体を回収するエヴァ部隊。ここの映像美は言うことなし。素晴らしい。
でも、これ後からすると観客に対する演出方針を騙す為の煙幕に見えてくる。

見ていると今回の映画化は「序破急」というより「守破離」じゃなかろうかと。「離」としては、前作から14年後という設定で初めて過去の作品から離れて物語が進んで行く事を示しているように見えます。ただ一方で本作が繰り返し繰り広げられる変奏曲の1変奏に過ぎない側面も持っており、様々な断片が積み上げられて観客を困惑に導く構造があります。人によってはアニメ作品として不誠実というでしょうし、単に昔のエヴァに戻っただけという人もいるのではないか。個人的には監督が思っている一面が露になった、その観点では昔からブレはないんだなと思った。

ヴィレ=大人の集団

回収されたシンジの登場。武装兵に包囲されて寝台で連行されるシーン。状況を理解しない精神的には前作より幼稚化したシンジの視点で物語が動き始める訳ですが、艦長から看護士官まで揃って「ガキ」扱いしかしていないシンジに対してあの程度の説明しかしないなら薬漬けにでもしていた方がいいのではないか、何故そうしないのか背景が見えてこない演出は手抜きかなと思いますが状況がそれ以上の速度で進むので見ている間は気にならず……と、概ね映像に注力されていて脚本の論理的な展開力の不足を感じる展開。

14年後という設定の中でネルフ、ネルフと敵対する人類側勢力「ヴィレ」と使徒という三つ巴設定はTVシリーズでのネルフ内部抗争を分かりやすくする効果があったかなと。あとヴィレが自衛隊式階級ではなく軍階級を採用しているのも面白いところですし、艦長以下軍人と「民間人」が使命を理解した大人として振る舞っている事を暗示しているように見えます。


キャラクター、シンジが14歳のままである事に対してアスカの使命感は年齢相応の大人としての描写。容姿が変わっていないのはエヴァの呪縛といった風な説明が入っていたと思いますが、この点が「14年後」を描いた事で変える事が出来た、また必然的な説明を織り込む事が出来た最も優れた点だったように見えました。ただ、シンジとアスカの精神年齢描写はTV版にもあったアニメファンへの批判そのものでこのあたりの「思い」は変わっていないのは確か。

アスカがシンジを助けるシーン。肩で息をしている=シンジが心配という説。20代後半の女性、しかも軍人が民間人の中学生が無茶をしているのを見て救助しない訳がないと思う。こういった「大人の目線」だけはしっかりしているのがTVシリーズとの決定的な違いかも知れない。

テクノロジーと魔術は等価と言う事は出来るが、しかし……

ただ本作、人類の滅亡を描く作品にしては経済や産業がきちんと機能しているようにしか見えないのが謎。戦艦、航空母艦、駆逐艦などは定期的な整備なしに稼働は出来ません。また輸送の為に飛び交うブラックホークの燃料はどこからやってくるのか。「世界は知らんと欲す」とは思っちゃいますね。
それに輪をかけて平時の世界経済ですら破綻に追い込みそうなヴィレの「AAAヴンター」、NERVが建造した13号機とどうやって必要なエネルギー調達、金属精錬、部品類の製造を行っているのかと考えるともはや天から降って来ているとしか思えない。
このあたりのリアリティーラインの低さは人類滅亡の切迫感をなくす効果を伴っており、結果として艦橋の面々のシンジに対する嫌悪の根拠を崩している面があると思う。
テクノロジーが魔術にしか見えない側面があるのは確かですが、テクノロジーは様々な積み重ねの上に存在している訳で戦艦「ヴンター」の存在させたいのであればそれなりの論理は持ち込まれるべきではないでしょうか。

食事に見るエヴァ

「破」「Q」比較だと食事描写の落差はポイントかも知れない。「破」だとシンジが弁当を作ってピクニックといった丁寧な「日常」描写があった訳ですが、ネルフ基地に脱出したシンジの食事はペースト状の何かに過ぎないものしか出てこず、世界が暗転した事を示していた。(元ネタ、2001年宇宙の旅かソイレントグリーンあたりでしょうか?)

源氏名「薫ちゃん」との運命の出会い

こういった「丁寧」な演出もあるのですが、「Q」の話の軸はシンジくんとの「運命」を信じるキャバクラ嬢「薫ちゃん」にひっかかって、一緒にある贖罪を行う事にした主人公は実は別の犯罪に手を貸す事に。その中で「薫ちゃん」も騙されていた事に気付いて、女刑事2人組も乱入して……というVシネマあたりにありそうな話にしか見えなかったのは残念。

14年後に到ってもそこから先には動いたように見えない物語

映画終わった瞬間、シーンとしていましたが実はろくに話が進んでいない衝撃からじゃないかなと思いつつ映画館を後にしました。結局14年後の状況説明という間奏曲に過ぎなかったんですよね。悪く言えば最終話に向けた時間稼ぎでしょうか。
こんな私ですが次回最終話も楽しみにしております。