2012年9月23日日曜日

[映画] サウダーヂ

岐阜県可児市の文化創造センターアーラで多文化共生プロジェクト関連企画として9月222日から2日間上映があったので見てきました。




山梨県甲府市を舞台に日本、日本・タイのハーフ、日系ブラジル人の三者の人々の群像劇が描かれた作品。TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」や「菊地成孔の粋な夜電波」で取り上げられていて気になっていたのですが、車で行ける場所で上映の案内をたまたま見かけて前売りチケットを入手。(ネット予約サイトで最前列取ったらわざわざTELで確認されました。私は可能な限り最前列派なんですが、ここまでされるかとorz)

本作、上映時間167分(=2時間47分)と長い。そして脚本はぶつ切り。登場人物達が全て交錯するシーンがある訳でもない。(例えば山王団地の日系ブラジル人たちのエピソードで出てくる家族は日本人の物語りに関わる事はない)
最後に物語が一点に収束して大団円を迎えるような映画的な構造は取っておらず、それぞれの物語が登場人物達の苦悩とともに進んで行く。ドキュメンタリーに近い作り方に見えた。

面白いのが日本人たちの空虚さ。普通の人が何かを失う事で現実感を喪失して行く様はラッパーであり土方の猛、職を失い妻とも話が合わなくなった堀、会社を廃業して引退という道を選んだ土建会社の社長といった形で描かれている。
強いのはやはり女性。堀の妻は選挙活動に没頭する事で社会との関わりを強める。そして日本・タイハーフでタイパブで働くミャオは最後に「I want money!」と言う。
何かをこれから勝ち取るために足掻く覚悟がある者とその覚悟を失った者のコントラストの差が激しい。
音楽がタイやブラジルの文化のルーツを示している訳ですが、それに対応する日本の音楽がラップであり、政治批判というあたりも興味深い。

てっきりビデオ撮影かと思ったのですが、最近めずらしいフィルム撮影で作られた作品との事。暗がりを彷徨するシーンで高感度ノイズが乗っていたので?と思ったら、パンフの同シーンを使った見開きページにブロックノイズも出ていたので、このあたりはビデオ撮影したものでしょう。このシーン、ファンタジーとして描かれているのでフィルム撮影のシーンと印象を変える為の意図的なものだとわかる。

地方都市の駅前シャッター街は町の重心がロードサイドに移ったという事についてあまり描き込まれていません。堀がショッピングモールで買い物していて同僚と会ってしまうシーンと整地済みのイオンショッピングモール建設予定地ぐらいでしか出てこない。同僚と会ってしまうシーンの後でミャオと堀が町中をぶらぶら歩いてデートするシーンが出てくるあたりで対比構造を持たせている事はわかるのですが、ロードサイドの大型店舗が地方都市におけるミニ東京の象徴としては不十分な印象はあります。ただ、これ自体は本作で描こうとした本筋ではないですが。

地方都市を舞台にして群像劇を作る事で日本の様々な様相をあぶり出している。不思議な引力を持った作品です。好意的な評が多い理由もよくわかりました。
本作のドキュメンタリー作品である「Furusato2009」もまた見てみたい。

追記:上映後、出入口で「パンフあります」と言われたのですかさず購入。制作過程での話(例えばある出演者は制作中にブラジルへ帰国したという話が出て来たりする)など盛りだくさんの内容で読み応えがあります。こちらもお勧めです。