2012年9月1日土曜日

[映画] 「プンサンケ」(豊山犬)

8月31日。会社帰り、映画館に寄れそうな時刻だったのでGoogle映画検索でやっている映画をチェックして発見して見てきました。

原題は「豊山犬」。北朝鮮の犬の産地にして煙草の銘柄らしい。キム・ギドク監督が脚本・制作、監督はギドク監督作品の助監督だったチョン・ジェホン監督の第二作との由。

タイトルロールでNikonなど協賛企業のロゴ。「?」と思っていたら主人公がデジカメを仕事に活用。そしてなんと変なデジカメを多く輩出して来たニコンの一代限りの変種であるプロジェクター内蔵COOLPIXが登場したときは思わずのけぞりました。あの製品、使い道があるのかと思っていたら、映画ではきちんとした使い方をされていて納得。


以下、ネタバレに近いところがあるので、























続けて38度線を越えるシーンで棒高跳びで越えて行くシーン等が続いて期待が膨む。
主人公は38度線を行き来して離散家族の間で人やビデオの行き来と古物密輸を生業にしているという設定。ある事から韓国の情報院が主人公の存在を知り、北からの初老の亡命者(某思想の理論家を匂わせる設定)が愛人を抱く(!)まで情報は出さないと抵抗した事から亡命させるように仕事を依頼。平壌−ソウル間を3時間で往復するという魔法が示されます。

ここからヒロインと主人公の間を疑う亡命者の間での奇妙な駆け引きのメロドラマパートに入る訳ですが、本作は主人公の生業を紹介するAパート、ヒロインの亡命とその後のソープオペラ展開のBパート、北の工作員のドタバタ悲喜劇のCパート、南北情報員が謎の状況に追い込まれるDパート、エピローグをなすEパートと分ける事が出来るかなと。
北朝鮮と韓国の関係を象徴的に描こうとしたとしたと思ったら、新しいキスシーンの創造をしたりと作品のブレが後になればなるほど拡大。説明的な会話の総量=映画の演出力だと思うのですが、主人公がしゃべれないという設定の代わりにその周囲が話をする、する、する……という事でこの点も大いに問題あり。Eパートは物語世界からの逃亡に思えました。

ギドク監督の脚本との事ですが、この監督の物語世界はファンタジーに近い所があるなと思った事はあります。そこから見ると本作は主人公の狂言回しという仕掛けを軸に南北問題や男女関係について盛りだくさんに語ろうとしたのは分かるのですが、成功しているかと言われれば監督の得意とする物語世界ではなかったし、周囲は止めるかもっと脚本をブラッシュアップさせる努力をすべきではなかったのかと思わざるを得ません。

魔法といえば主人公は地雷を踏んでかすり傷を負ったり、過酷な拷問を度々受けたり足を引きずったりするのですが、アクションシーンではその事が全く影響していなかったのはやはり何か魔法を帯びているのでしょう。
ギドク監督が映画に対して持っていた魔法が解けてしまっていたのが残念です。