2012年12月22日(土)20:50の回で見ました。レイトショー枠な訳ですが結構混んでいたような。
暴動パートに入るあたりで離脱しました。この映画を見るには体力が足りませんでした。
衣装や化粧、建築物などは映画の手法によるリアリティーの追及を徹底。このあたりは「英国王のスピーチ」を撮ったトム・フーパー監督と制作チームの映画としてのクオリティーへのこだわりを感じる。例えば冒頭の三層戦列艦らしき大型帆走軍艦を囚人たちが牽引してドックに引き込むシーン。軍艦のディティールが豊か。何故か右舷に傾いた艦なのに何故か左舷砲列が突き出されておりちょっとおかしいのではないかと思った所はありますが(普通発砲前にしか出さないと思う。もし戦闘中に砲列から兵員が離れざるを得ない状況だったとすればあんなきれいに全砲列出ている事はないのでは?)、映画としてのクオリティーを保つ為にこちらにもしっかり予算を投じて見事な映像化になっていたように思います。
一方で演出はミュージカルの映画化に拘ったようで基本出演陣のクローズアップと歌唱で物語が進む。この為歌わない会話のシーンはコゼットの子供時代までのパートではほとんど見られず。歌唱主体を選択した時点でクローズアップ手法の多用は決まっていたと思う。ミュージカルは通常生声歌唱でありアンプは通さない(はず)。映画はアンプを通すのが前提の音響。クローズアップであれば、舞台と映画の違いをうまく消し去る事が出来る。そういった計算があったのではないか……というのは考え過ぎかもしませんね。
上映時間158分。ミュージカル版は2007年のもので2幕構成で1幕90分、2幕75分の計165分とさほど変わらず。ミュージカルとしての映画化として考えると元となったミュージカル版の楽曲に手を付ける余地はさほどないんじゃないかと思ったのですが、どうでしょうか。この事が本作に会話パートがほとんどない純粋なミュージカルの映画化になった要因ではないかなと。実際、映画として158分=2時間40分は長いと言わざるを得ません。
ただこういった為に作品の緩急がほとんどなく、作中時間経過が見て取りにくい作品に仕上がったのは間違いない所。ファンティーヌ登場の町工場シーン。オーナーである市長が誰かという部分についてガラス扉の金文字をクローズアップしてみせたりした訳ですが、並行してジャヴェール警部の来訪という重要なストーリーが進んでいた為、すっかり紳士になったジャン・バルジャン=市長というのにはしばらく気付きませんでした。
何年か経過した場合は西暦テロップが出てましたが、このシーンの前には入っておらず時間経過が分かりにくいのは本作の弱点の一つだと思います。
加えてファンティーヌの死去からコゼットを迎えに行くのにどの程度時間が空いたかも分からないので、テナルディエ夫妻の悪辣さが弱まって見えたようにも思うのですが、どうでしょう。ミュージカルの完全映画化は映画としてのストーリー展開の相当な足枷になっているように見えます。
本作、あと30分上映時間を足して会話シーンを入れて物語のテンポの緩急を付けたら映画としての完成度はもっと上がったのではないでしょうか。もし入れないならミュージカル版第2幕に入る前にインターミッションを入れて欲しいなあと。2時間40分をミュージカル故の極めて高い情報圧縮度で見続けるのは集中力が一度切れるとリカバリー出来ません。映画興行としての都合もあるとは思いますが、舞台ミュージカルの忠実な映画化として考えるなら、こういった配慮の有無で相当観客の受容が変わっているのではないかと思った次第です。
本作のチャレンジは凄いと思います。高く評価されるべき作品だと思います。一方で観客への配慮が少し足りなかったのではないか、という疑問が頭を巡って離れないのも確かです。
追記:物語が類型的との指摘については、19世紀の傑作小説がベースであり、この作品がその後様々な作品に影響を与えたであろう点は容易に想像出来るところ。とすれば無い物ねだりの批判だと思います。
追記2:キャスティングはどなたもすばらしいのですが、特にファンティーヌ役のアン・ハサウェイの歌と演技は別格かなと。本作だと映画演技とミュージカルのバランスが難しい訳ですが両立しているように私には思えました。