航空パニックものと思ったら思いっきり肩すかし。どちらかというと「スーパー!」と同じカテゴリーか。冒頭シーンとその後の組み立て方は「ヒアアフター」的というか。。。
※ネタバレあります。
デンゼル・ワシントン扮するウィトカー機長がどれだけろくでもない人間かについては冒頭いきなり明示されます。そして機内でも想像を絶する行為に及んでいてどうなる?と思ったところで機体が故障。その中で機長が信じられない能力を発揮して航空機を不時着させる事に成功。乗客4名と乗務員2名の計6名の犠牲者だけで済ませるというのが最初の30分程度でおきます。予告編はこのあたりを切り取っているので大変誤解を与えるところです。
ただ本作のテーマはここからが本題。ウィトカー機長の超人的な働きで犠牲者を最小限に押え込んだ訳ですが、不時着時の怪我で入院した際に血液サンプルをとられていて、いろいろと出て来てはならないものが検出され、ウィトカー機長は雲隠れ。
その中で病院で出会った女性、昔の親友であるパイロット組合の役員とその彼が手配した腕利き弁護士が救いの手を差し伸べますが、アルコールと薬によって全てを台無しに。
それでもアルコールを断ち切ったように見えたウィトカー機長に神が再び試練を与えた事で案の定台無しにしてしまう。最後はヤクの売人(ジョン・グッドマンが好演)の助けを借りてクスリをキメて素面の体を装ってNTSBの諮問会へと臨む。そこで最後の選択を迫られるという物語。
という事で実は悪魔の誘惑に負けた人間が最後の一線を越えるかどうか、どこにサスペンス性を求めるという極めて宗教性の強い作品でした。
実際、いろいろ振り返ってみると暗示的なものが多いです。不時着直前の教会の鐘楼に激突する主翼、十字架の上を通過して不時着。ジョン・グッドマンはどうみても「悪魔」がヤクの売人として出て来ているだけ。ウィトカー機長が病院で出会うがん患者は啓示を告げ、その啓示に従って助けた女性はウィトカー機長を唯一救済出来たかも知れない存在として描写。
禁酒の会でのスピーチもウィトカー機長がどのような人格の持ち主か語っているような内容になっていて大変分かりやすい事は分かりやすい。
ただ宗教にあまり関心がない側から見ると、正しいかどうかはさておいて人間らしさはジョン・グッドマン扮するヤクの売人こと「悪魔」の方がそのモチベーションは明確で共感しうるものがあったなと思います。
本作はアルコールや薬といった悪の誘惑への依存に対して一線を越えてしまうかどうかという物語ですが、これは見方を変えると神に対してのみ依存すべきかどうかという物語にも見えます。
これはウィトカー機長が軽蔑してた信心深い副操縦士がもっとも象徴しているところですが、弁護士も「事故原因に不可抗力を付け加えさせた」といいつつ、その「不可抗力」=「神のなさる事」という観点で副操縦士の「神の与えた試練」というのと何気に同じという構図になっていて、ウィトカー機長を取り巻く人々は基本神からの助け、救いの手だったというのは、ちょっと見え過ぎなストーリーじゃないかなと思います。
そういった点を理解して見ている分には面白いのですが、話の着地が見えにくいのが少々辛かったのは確かです。アメリカの宗教観を見つめるには面白い映画だと思います。