辛口評価になりました。ゾーイ・カザンの演技は素晴らしいと思うのですけどね。
ネタバレあります。
自分がタイプした文章の登場人物が実体化したら。それがもし最初から「彼女」だったらというアイデア一発勝負の作品、と書くと身も蓋もないか。
ゾーイ・カザンの演技は素晴らしい。主人公がどうタイプするかで性格ががらっと変わってしまう。それゆえに俳優の能力が問われるし、実際に演技の七変幻を見る事が出来た。
特に創造主と被創造されたヒロインとの壮絶な対話は素晴らしいシーンでした。
本作の難点は主人公目線の物語なのに前半と後半でがらっと見方が変わる事に対してうまく説明がされなかった所。もっと伏線が必要だったと思うのですが、こういう事をやってしまう主人公だから、そうに決まっているという演出になっているように思ったのですが、私の見方が悪いのかな。
作品構造から言えば主人公に対する客観視点が不可欠。この点は「世界にひとつのプレイブック」は巧く処理。
作品の骨格がもともとどこかで喪失する物語である事が予感されるのは止むを得ないところだと思うのですが、主観視点で描いていたので前半に主人公の問題が描かれなかったのは本作の弱点だと思う。
加えて前半ルビーは実在するんだとわかってからの盛り上がり演出は長過ぎる。アイデア一発勝負で展開が読める作品である事を考えればもう少し尺は短くして欲しかったというのあるかなと。多分母親と義父のシーンを入れたかったんだろうとは思いますし、あれが後半につながる主人公の悪い点の予兆だとは思うのですが。。。
主人公が何故タイプライターで小説を書くのか、というのは作中だとだからルビーが実体化したんだよという視点で考えると納得出来る演出。
また文字を打ち出す音、そして改行するたびに「チーン」となるタイプライターは見ていて映画的で確かに合っているかなと。またタイプライターのアームが絡まってしまった瞬間に起きた出来事の描写は物語とタイプライターがシンクロした存在である事が見事に描かれていた。
ルビーが出ていった後、タイプライターをしまってMacBook Proで小説を書き直すシーンでようやく第二作に踏み出す事が出来たという展開は良かった。
ただ最期の出会いは反省した主人公へのご褒美としては甘過ぎるようと思う。このあたりはハッピー過ぎるし折角の作品のほろ苦い体験が吹き飛んだのは残念でした。
この展開だと主人公にとってのルビーの幸せとは何かと考えると結局何も変わっていないように見えてくるのですよね。これならない方が良かったのではないかと思った次第。
ゾーイ・カザンの演技を堪能する映画としては素晴らしい。またアイデアも創造主/被創造物の関係性を描いていて面白い。ただこのテーマに対して脚本のバランスが少し悪かった作品だと思う。
追記:カメラがゆれていたのは頂けなかったですね。何故ああまで揺れ続けるのか謎です。(さすがに接写シーンはそんな事はなかったですが)