「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の各シーンに関する分析と考察をまとめております(本ページでは嵐の夜の続きからエンドロール最後のシーンまで扱う)。物語の核心について触れておりますのでまずは映画をご覧になってからお読みいただければ幸いです(Part I.、Part II.、Part III.の続き、完結編です)。
30 大陸一のドールとは タイプライターと電話機と
灯台からの返電により3通の手紙とタイプライターを抱えたベネディクトとアイリスが車で病院へ急行。街の灯りなんかない状態でヘッドライトを頼りにシフトアップして突っ走らせるベネディクト。
タイプライターをベネディクトが持ってアイリスと病室へ駆けつける。病室前でタイプライターをアイリスに渡すベネディクトのプロフェッショナルぶり。
そしてユリスが望んだリュカへの手紙を代筆しようとするアイリス。でももうユリスにその体力も残されてない。タイプライターを見つめつつドールとしての職務を越えて解決策を思いつきベネディクトに車でリュカの所へ向かわせアイリスは病院の電話を病室へ引き込む依頼をねじ込む。
ベネディクトが電話を引いている個人宅に頼み込んでリュカに受話器を握らせ、そしてアイリスは病室で母親に送話器と受話器を持ってもらう事でユリスの心残りを解決した。こんな仕事を成し遂げられるドールは早々いないはず。この瞬間に大陸一のドール、少なくともその一角に彼女が加わるに値する仕事を成し遂げた。
31 遺された手紙と弟シオン
涙が多過ぎる作品という批判がありますが、一方で泣かずにいた登場人物がいる。それは亡くなったユリスの弟シオン。まだ5歳で死の意味を理解していないだけかと思いきや、そんな事はないと思う。父と母が兄の残した言葉に泣いてしまう中でシオンはお兄ちゃんはまだそこにいるという形でその言葉をちゃんと受け止めている。
32 冗談です
電信でユリスとリュカは手紙ではなく電話で話ができた事、手紙もきちんと3通両親と弟に渡された事が入電。ホッとするホッジンズとヴァイオレット。
ホッジンズは朝になったらもう一度ギルベルトのところへ行って出てこなきゃドアを破って殴ると言い出す。そこにヴァイオレットは「殴るなら私が」と右義手の拳を握った。
焦るホッジンズ。「冗談です」と言うヴァイオレット。もう来た頃の杓子定規な解釈しか出来なかった少女はいない。
そしてヴァイオレットはライデンに戻って手紙を書きますと言い出す。まるで仕事に逃げるしかないような台詞だった。
33 エカルテ島の朝、そして夕方
嵐が去った島の朝の風景の美しさ。そして連絡船の甲板からの夕焼け、入港中の連絡船、そしてぶどうの荷揚げをやろうと準備中の人力ロープウェイの場に移っていく。
34 約束を守らない少年と手紙
高台の道に姿を見せたホッジンズとヴァイオレット。男の子が駆け寄ってきて先生のロープウェイを自慢する。そんな男の子にヴァイオレットは少佐への最後の手紙を託す。「必ず手渡すね」という男の子。
そしてヴァイオレットは鞄を手にすると連絡船乗り場へと向けて歩き出し、ホッジンズは黙って後ろをついて行く。
35 ヴァイオレットから少佐への手紙
連絡船は比較的短い時間で行き来しているようで日が傾いた頃に入港した連絡船は一度出港している(なのでヴァイオレットとホッジンズが乗る便は次の入港分になった)。
ロープウェイの海側では島の老人が若い男性がいない事について戦争で豊かになると思ったからみんな出征したんだというような事を言う。そしてそれは誰のせいでもないから抱え込まなくていいのだとも告げている。おそらくあの老人にはジルベールがどこの国の人かぐらいは悟っている(多分島の大人はみんなそうだろう)。そして「帰れるところがあるなら帰ったら」と勧めるがジルベールはこの地にとどまると告げる。
そんな老人と入れ替わりにやってきたのがディートフリートで島に居場所を見つけたのかと言って弟と数年ぶりの対面を果たす。もうディートフリートはヴァイオレットの味方なので麻袋に入れてプレゼントしたい心境だとか言い出している。まあ、この人、ヴァイオレットに少し気があって、でもヴァイオレットは弟にしか気持ちを向けてないと知っている人なので今までの何もかも飲み込んでそれでもヴァイオレット、そして弟の幸せについて考えている。
対するギルベルトは引き取ったのが間違いだったと言いだす(そこまで遡るのか)。
「じゃあ、どうしたかったんだ」と問う兄に対して普通の女性として美しいものを見せたりして育って欲しかったとか言う。
ギルベルトがあれこれ言って回想している時、冒頭暗転シーンにあったオケのA音のような音が再び響き始める。この音はどうやらギルベルトの想いを象徴しているようでだからこそこのシーンで再び鳴るのだろう。「リズと青い鳥」ではオープンリールのヘッド操作でガチャっとなる音を2回入れてきておりそちらと近い演出に聞こえる。
ギルベルトの脳裏には兵営の庭で蝶を目で追っている幼いヴァイオレットの姿があったりしており、そういう体験だけ与えてやりたかったというのがギルベルトの望みだった。
ヴァイオレットが少佐の側で行動を共にしている間に見聞きした事で本当に何も感じていなかったとギルベルトが思っているのだとしたら、それはヴァイオレットへの過小評価だと思う。ギルベルトが色々と教えたからドールとなってどんどん感情を理解して自身でもハッタリや冗談を使いこなせるようになったのだから。
ロープウェイで降りてきた手紙の宛名を見てそれと察するディートフリートは弟にともかく読めと言う(手渡ししてないんですよ、あの男の子は!)。
ヴァイオレットの手紙を読むギルベルト。彼女がギルベルトと会ってから別れる日まで彼をどう思っていたのか感謝の言葉と共に綴られている。読まれない最後の一文はその前に「あいしてる」の意味について触れていて何を書いているのかは明白。
そしてディートフリートは弟に「行けよ」と一言背中を押し、ギルベルトはヴァイオレットの元へと駆け出した。
36 先生は走るのが早いんだ
灯台や連絡船のL型岸壁はおそらく島東側にあって、ぶどう畑のロープウェイは西側じゃないかと推測。
なのでヴァイオレット達も連絡船へ追いつこうと駆け出したギルベルトも山を超えて島の反対側である東側に出たと推定。
そしてギルベルトは連絡船が見えた時にヴァイオレットの名前を叫び、ヴァイオレットは甲板から身を乗り出してそれを聞き取った(ホッジンズにも聞こえていた)
確かに先生は走るのが早いのです。
37 飛び込み禁止の看板なんて必要なのかね?
……と連絡船の船長と航海士らはぼやいたはず。ヴァイオレットはギルベルトの呼びかけに何も躊躇せず甲板を蹴って走り出して海へ飛び込んで行った。
ホッジンズはそんな彼女を止められなかった。ただ見ているしかなかった。多分あの後、船の人たちに思いっきり謝ったんだろうな。それが父親代わりの彼の最後の大きな仕事なのだから。
ギルベルトは本当に早かった。こけたり回転したりしながら海へと入っていき、戻ってきたヴァイオレットと再会した。5年ぶりの事。身長も伸びてすっかり様子は変わっていたはず。
鼻水まで垂らして号泣のヴァイオレット。その一方でギルベルトも涙が止まらずでもまずヴァイオレットに泣くのをやめてほしいみたいな事を言いつつ自分も泣いている訳で人間のややこしさみたいなものを具現化している。そのせいで少佐は何を考えているのか理解されず、共感できないみたいに言われるわけです。
ギルベルトはヴァイオレットの成長を新聞記事の仕事ぶりなどでしか知らない。彼女は言葉と感情を結びつけて表現できるように成長したけどその事をはっきりとは知らなかった。その一端を手紙で触れてようやく自分が独り相撲で彼女から離れればいいと思い込んでいた事に気づいた。ここまでの二人の関係は父と娘に近いものがある。だから彼は「ずっとこうしたかった」と言うような事を彼女に告げられる。
最後に風はギルベルトの手からヴァイオレットの手紙を取り上げて奉納させている。その手紙は高く高く舞い上がり月の灯りに照らされて遠くからでも見えたように描かれた。
手紙は空へ飛ぶ事で始まりを告げ、そしてここに一つの時代の終わりを示した。
結局、ギルベルトが願ったのはヴァイオレットの幸せです。そのために自分がいてはならないと信じた。でもヴァイオレットの幸せってヴァイオレットにすればギルベルトの側で一緒に生きていたいというものなので、それを無視していた。最後の手紙でようやくその事に気づいてヴァイオレットのために彼女と一緒に生きなければならないこと、そうする事で彼女の両腕や戦争でやらせた事への償いにもなると思ったのじゃないか。
38 カーテンコール
ライデンの花火大会。電波塔竣工記念なのか実に盛大だけど本作においては郵便社出演陣そしてヴァイオレットの時代の終わりにあたっての登場人物達のカーテンコールでもある。
エリカはこの日、自作脚本の舞台劇の上演があるようでみんなを待ち受けていた。そしてエリカも加わってホッジンズ、カトレア、アイリスとベネディクトは夜空の美しい情景を見上げている。
そんな時にホッジンズはいつものように傍に視線を落として「娘」はもう島に幸せを掴みに行った事を思い出して涙する。それをからかうベネディクト。テレビ版第13話航空祭での描写の引用にもなっていますが、もうヴァイオレットはそこにいないところにホッジンズが感じた寂寥感がある。こうして一つの時代がここに閉じられた。
39 Her Sprit Lives On
雪の降る海を行く連絡船。ヴァイオレットの時代から数十年を経て船も大型化している。エカルテ島に向かうのはデイジー。博物館でネリネにヴァイオレットについて知っている事を教えてもらったようでエカルテ島でのヴァイオレットについて知りたくてライデンからそのまま向かったらしい。
時代表現といえば女性の靴。デイジーもネリネもローヒールの靴しか履いていなかった。エカルテ島の東大への葛折りの道に残されたデイジーの足跡でもそれはわかる。
学校の校門左側には赤いリボンが括られていて、学校の先生らしい人がタイプライターを叩くジェスチャーをしてみせた。そして街中に移転したという郵便局ではドールの徽章を付けた男性郵便局員の人がこの島の手紙の送付数で国内随一と語り昔いたというドールに想いを馳せたのち(そこで郵便局脇の高い木の枝に結ばれた赤いリボンが揺れるカットが入る)そのドールの名前を告げようとしてデイジーが遮ってその名を告げた。
貨物運搬用の簡易ロープウェイがあったぶどう畑を見下ろす高台にある喫茶店かレストランでデイジーは両親に当てて手紙を書いた。
そしてその手紙はアンの家にいた両親の手元に届いた。封筒にはまっすぐ歩くヴァイオレットの姿がデザインされていた。そしてヴァイオレットの精神「あいしてる」は時を超えてデイジーの言葉としても響いた。
暗転した世界。エカルテ島のダートの道を歩むヴァイオレットの後ろ姿は切手の真横からの構図を後ろから見たものに見える(従って冒頭のシーンはその前触れとして出てきたものと考えられる)。このシーンはここで奏でられているサウンドトラックのタイトル「Her Sprit Lives On」を象徴したものなのだろう。
ピアノの音が最後のメロディを奏でたのち最後の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」と表示される。これはきっと冒頭の「Sincelery」とつながっている。
40 主人公二人のカーテンコール
エンドロール最後にギルベルトの家に来たヴァイオレットとギルベルトがベッドに腰掛けて約束を交わして映画は幸せな終わりを告げる。
証人はまさかのあの犬のぬいぐるみくん。テレビ版第1話から登場、ホッジンズが無理やり押し付け(選ばれなかった猫とウサギは社長室のデスクへ。博物館となったデイジーの世界ではあの二匹はいなくなっている)最初は邪険にしていたヴァイオレットがきちんと定位置を与えつつその視線を部屋の中向きから窓の外へ変えたあたりでホッジンズの父親代わりの過保護と連動していそうなあの犬のぬいぐるみが二人の約束の証人になる日が来るとは思いもしなかった。