Sincerely with Love.
10 エカルテ島のジルベール(2)
夕陽の中の島。一人歩くジルベールに小さな少女が手を伸ばし呼び止めて代筆を依頼した。その少女の手が伸びる所はヴァイオレットがキーに触れるところから続いているかのようなつなぎになっている。
少女には母親と弟がいる。そして父親はライデンシャフトリヒとの戦争へ行ってすぐ帰ると言っていたのに未だに帰ってきていないという。そんな父親に手紙を送りたい。それが彼女の願いだった。
このパート、実は時期はよくわかりません。ヴァイオレットのタイムラインは比較的推測可能でそんな長期に渡っていない(エリカの舞台劇が「翌月」とされておりタイムリミットがある)のですが、ジルベールの再会までのタイムラインはもっと前でないと辻褄が合わないので。
11 週末(3)大佐対ヴァイオレット
夕方、郵便社に歩いて戻ってきたヴァイオレット。気はここにあらず状態の中で前から近づく男性が右ポケットから手を出した事から不審な行動と判断して飛び掛かって制圧しようとした。対する男性、ディートフリートはヴァイオレットの自動迎撃をしのいで大慌てで声を掛けて誰か気付かせた。
ディートフリートには以前あったようなヴァイオレットへの敵意はない。だからこんな一触即発のクローズコンバット寸前の無礼があっても「気にしてない」と伝えている。かわれば変わるものだという展開。
ディートフリートは立ち去ろうとしたヴァイオレットを呼び止めてギルベルトの幼少期のおもちゃや本で欲しいものがあれば貰ってくれと言う。思い付きだけど墓地で会っていなければ、あそこでリボンが落ちていなければなかった展開。ここでヴァイオレットのディートフリートへの距離は一気に近くなる。頬を赤くして取りに行きますと言い出し、思わぬ反応にディートフリート、そしておそらくはホッジンズも驚いている。
12 週末(4)レストラン再び
ヴァイオレットとホッジンズ、ベネディクトは3人でレストランに夕食を食べに行っている。そのレストランはヴァイオレットが郵便社にやってきてポストマンとして夜まで働こうとしてベネディクトが管理不行き届きでホッジンズに怒られた際に来た思い出の店でもある。
ヴァイオレットが初めて来た時は魚料理をまだ完全には慣れていなかったであろう義手でぎこちなく食べていた姿を思い出すホッジンズ。
今日はホッジンズがその魚料理を食べていて、ヴァイオレットはパテにチーズソースが掛けられたような料理をナイフとフォークを上手に使って食べている。
ホッジンズはお墓参りについて問い質し、そして船に行くならと一緒に行くよとまで言い出す。うるさい父親代わりに対して、ヴァイオレットはユリスとの会話で得た「過保護」は無用ですと返す。ヴァイオレットの日常的会話の語彙はまだまだ穴が多いので機会があれば新たな言葉を自分の表現にしていくところがありこの日も遺憾無く発揮されている。
13 カトレアの危惧とヴァイオレットの記憶
ホッジンズはヴァイオレットに近付くディートフリートに対する怒りをカトレアに聞いてもらっている。が、カトレアはいわゆる「ディー・ヴァイ」カップリングの可能性についてギルベルトへの想いを共有する二人だからいいんじゃない?と言い出している。
興味深いのはホッジンズのヴァイオレットが何故軍に入れられたかについて「孤児だからと引き取った」と思い込んでいる事。ホッジンズがヴァイオレットを見たのは訓練所で彼女が死屍累々の山を築いた時とインテンス決戦前夜の2回しかなく正確な経緯までは掴んでいないはず。
実際のところヴァイオレットを捕まえて陸軍特殊部隊に加えさせたのはディートフリートの差配。じゃあ、何故海軍特殊部隊に留め置かなかったのか。といえば部下の死傷に彼女が絡んでいて手元に置いておくと恨みを晴らそうと言う部下が出ないとも限らず危うい事と原作設定で言えば彼女の過剰防衛は問題だったけどそうする正当な理由があったからといえる。
ディートフリートには正確な事情を語りたくない、語れない理由があったとすればギルベルト、ホッジンズ、ライデン市長、そしてまだ言葉を持たず記憶も曖昧な頃のヴァイオレットとディートフリート以外で正確な事情を知る者はいないと言えそう。
14 ブーゲンビリア家大型ヨットへようこそ
ブーゲンビリア家の持ち船にディートフリート自ら出迎えられたヴァイオレット。本やゲーム板、鉄道模型などの中から最初に帽子を手にしたがディートフリートから「それは俺の」と言われてからあっという間に元の場所に戻して謝るというのは意図しないにしろヴァイオレットの方も慇懃無礼ではある。
ディートフリートは海が好きだったブーゲンビリア家の亡くなった当主(兄弟の父親。金刺繍菱形2個の肩章を持つ陸軍少将らしい)について回想する。ディートフリートは軍隊をそもそも嫌っていて父親への反抗として海軍を選んだらしい事が見えてくる。またかわいらしいと言っていい年頃のギルベルト(兄が14〜16歳頃に対して弟が9〜11歳ぐらい)にしても優しさ故に家督を継ぐと言い出していてこれがディートフリートにおけるギルベルトへに負い目になっている。そういうブーゲンビリア家の事情を明かす回想でもある。
それを聞いたヴァイオレットはドール学校同期のルクレア・モールバラとその兄の事を思い出してディートフリートに共感の意を示し、その事でディートフリートを驚かせた。
ゲーム盤と本、兵士人形や運転手人形付きの車をもらったヴァイオレット。甲板に上がる際にカトレアの説を実証しようとでもするんっか気まぐれな風が船を揺らす。倒れそうになるヴァイオレットをディートフリートが腕を掴んで支えるが、ここでヴァイオレットの主観視点はじっと自分の両義手が持っているゲーム盤や本、そして運転手人形付きの車と兵士の人形を見つめている。兵士の人形はまるで車にはねられたような位置に転がっている。きっと兵士がヴァイオレットで車の運転手がディートフリートという寓意であり、カトレアのいう「ディー・ヴァイ」カップリングに対するヴァイオレットのアンサーに見える。
15 少年の手紙の代筆
再びユリスの元を訪れたヴァイオレット。ユリスの希望を聞きながら時にアイデアを出して手紙を仕上げて行く。ユリスにとってヴァイオレットは何も知らないと言いつつ体験した事がないというのにこれぞという話を出してユリスの引き出しを開けてくれている不思議な人。ヴァイオレット自身は代筆の経験から他の人の人生を知っている事で手紙を書くための知恵を持っている一方でサムアップのようなユリスにとっての常識を身につけていない。
ヴァイオレットが少佐と出会って言葉を覚えてから8年程度経過しておりユリスが8歳だとすれば同じぐらいの記憶を持った同士ではある。その事がヴァイオレットにしてユリスへ個人的に手を貸す気になった一方でユリスが知らない事を教えてあげられる相手というイーブンな関係になったのだと思う。
弟シオンへの手紙を仕上げ、やはりヴァイオレットの知らなかった指切りで個人的な誓約を交わした二人。ユリスはもう一人心残りの人がいた。親友で入院してから会っていないらしいリュカ。ヴァイオレットが最初に訪問した時に母親が会いたがっているという話を持ち出してユリスがすっかり筋肉など落ちた姿を見せたくないと拒否した相手でもあるが病状が悪化して「リュカへの手紙はまた次の機会にしましょう」とヴァイオレットが告げた。が、そんな機会がないとはヴァイオレットにもわかってはいない事だった。
看護師を呼びユリスに点滴が施された。鎮静剤が入っていたのか眠っているが先ほどまでの元気はすっかり顔から消え失せている。
帰る前に廊下で看護師を話をしているヴァイオレット。その台詞はなくただ会話しているらしい事だけ分かる描写になっている。リュカについて看護師に見てないか尋ねたのか、可能性は低いですがユリスが危篤になったら郵便社に連絡を貰うように依頼をしていたのか。ここは観客に想像させる形でとどめている(台詞をカットすれば尺は短く済ませられるメリットはあってやっているものと推測)。
16 宛先不明郵便物倉庫での発見
ホッジンズとベネディクトの二人が軍から譲り受けてローランドが管理していた宛先不明郵便物倉庫の整理について昇進の話をねじ込み、簿記を勉強したらと副社長に昇進させると約束するホッジンズ。こうやって郵便社の人たちは少しずつ未来の行方が示されていく。
ホッジンズがたまたま目にした手紙の宛名の書き方の手癖から親友が書いた可能性が高いと判断する。その手紙はエカルテ島から送られてものでベネディクト曰く戦争中はガルダリク帝国が占領、戦後独立した島なのだという形でほんの少し島の情報が提示される。
17 海軍省
海軍省のディートフリート海軍大佐に面会を申し入れたホッジンズ。ヴァイオレットが船に行ったと聞かされた挙句ディートフリートから「お前に縛る権利はない」と言われて「お前が言うな」と言い返して一触即発。ただディートフリートはずっと自分の言い方のまずさを反省はしており、部下にホッジンズを止めさせようとはしなかった。
この作品、何回か「お前が言うな」「お前が言うの?」というシーンがありますがその最大のシーンであるのは相手がディートフリートだからだろう。
ホッジンズは倉庫から持ち出してきたエカルテ島からの手紙をディートフリートに見せると調査を依頼した。兄もすぐ弟の筆跡だと思った事が分かって次のシーンへと進んでいる。
18 ライデンのデイジー
ヴァイオレットの時代から数十年後のライデン市の様子は電化された路面鉄道、公衆電話、交通標識などで文字が多用されており、ヴァイオレットの時代の記号化した看板(レストランならフォークとナイフとお皿の絵で表す)はなくなっているように見える。
CH郵便社の旧社屋は郵便事業の国有化の中でCH郵便社記念財団が運営する郵便博物館となっていてポストマンのバッグやベスト、ドールたちのタイプライターが展示されている。
郵便社の人達の集合写真。テイラーは希望通りポストマンとして就職しているようでヴァイオレットが去って数年後のものかドール達も少し大人びた感じで写っている。また一人見知らぬ女性がポストマンや受付の人達と異なる服装でいてヴァイオレットの後で入ったドールの人に見える。
子どもの面倒を見ているローランド翁はまたポストマンの制服を着ていて再就職したのか。それにしても子ども達は近所の子なのか社員の子なのか気になる一枚になっている。
一階の展示物を見ているデイジーはある切手に見覚えがあって高齢の女性説明員に声を掛けた。彼女はデイジーが入って来たときには居眠りをしていたけど「以前ここの受付で働いていたんですよ」と自己紹介していた。
眼を見開いた説明員の瞳の色から数十年を経てデイジーとヴァイオレットをつなぐ役割を果たしたネリネだと分かる。彼女は切手が記念財団がエカルテ島でのみ発行している切手だと告げ、デイジーはその事で質問しようとしている所でシーンが終わる。
ネリネはヴァイオレットたちの時代とデイジーの時代をつなぐ唯一の人物です。彼女をここで絡ませる事でデイジーにヴァイオレットが郵便社を退職後どうしたのかある程度わかる情報提供ラインになっている一方でデイジーに何もかも知らせないフィルターの役割も果たしている。
19 エカルテ島の感謝祭
再びヴァイオレットの時代に戻ってエカルテ島の感謝祭。崖に島の人々が集まっているが青年〜中年ぐらいの男性はほとんどいない。例外はジルベールぐらい。島の老人曰く「ライデンシャフトリヒに戦争に行って誰も帰って来なかった」という。
また「海で死なずに戦争で死ぬとはご先祖様に顔向けできない」とも言っておりこの島の主要産業は戦争前には海運関係か漁業にあったであろうことも示唆されている。
そんな針の筵のような会話の追い討ちのように感謝祭で読み上げられた讃歌は今年のライデン市の海の感謝祭で読まれたものでヴァイオレット・エヴァーガーデンという有名なドールが書いたのだと告げられる。
ヴァイオレットは大陸中に知られるような仕事も行なっており、ギルベルトはそういうのを避けてたどり着いたのがエカルテ島だったんじゃないだろうか。だとすればここでもヴァイオレットの名前は聞こえて来ておりテルシス大陸や周辺の離島ぐらいでは逃げられたものではなかった。