2014年8月22日金曜日

[映画] プロミスト・ランド

2012年制作。米国では2013年公開。1年半以上の遅れでようやく公開。
ネタバレに近い部分があるのでご注意下さい。

監督:ガス・ヴァン・サント
脚本:マット・デイモン&ジョン・クラシンスキ
デイモンが主人公を演じていて、クラシンスキは環境保護団体の男役で出演。結構メタフィクションな所があります。

あらすじ
単純、直情型ながらシェールガス採掘権の買い叩きでは優れた手腕を持つ主人公スティーブ。昇進が決まって相棒で同僚の女性スーと新しい町の鉱区権取得の為にある田舎の農業が主要産業の町へ。そこで思わぬ出来事が起きてしまいシェールガス採掘を巡り町を二分する中で、採掘権獲得しようと奔走するが−−−。


主人公スティーブのナイーブさ
スティーブは田舎の出身で祖父までは農場をやっていたが、近くの工場が閉鎖されそこで生きていく事に「プロムの頃に」(高校卒業前)見切りをつけて離れていて、この職に就くまでの経歴は明かされてませんが大変だった事が感じられる役柄。
シェールガス採掘権は今、町の人たちが受けている苦境を脱出するのに必要な資金源になり得る事を町の住民に知らせたいという使命感を持っている。時としてダーティーワークも辞さないのですが、それでも町の為になる事をしているし、このまま行けば自分と同じ苦労をする事になるからという善意の固まりとして動き回る。

スティーブは「金の味を知れば」と言って、子供のスポーツ大会の後援、協賛やお祭りをやろうと奔走。このやり方自体は巧妙であり、企業の論理そのものですが、その裏でお金がないと乗り越えられない問題がある事を町の反対派の人に飲み込ませたかったという彼なりの善意。
でも彼が説得してサインさせた若い男性は大喜びで隣町でスポーツカーを買って帰って来たのを見て、これで良かったのかという疑念が浮かぶ。

スティーブがシェールガスに単なる仕事以上の熱意すら見せていたのは、アメリカの大学授業料の高さ、補助金がなければ成り立たない農業、そして農業や生活を維持する為に組まざるを得ないローン。そういうものを全て指を立てて追い払う手段なんだ、何故俺の言う事が分かってくれないんだというスティーブの心の叫び。
そして自分が悪人ではないと信じているし、アリスにもそう思ってほしいという願い。

憎めない人物だから集会で住民投票に話を持って行った「高校教師なんて老後の趣味」同然の元ボーイングエンジニアにも気に入られて食事まで招待される。

スティーブは重要な場に臨む時に顔を洗う。
オープニング。昇進面接では高級レストランの化粧室で顔を洗い、店のウェイターからタオルを貰い顔を拭いた。
最後の住民投票前、体育館のトイレでは備え付けのペーパータオルで顔を拭いた。
トイレを出るとふと目に入ったレモネードを貰う。1ドル渡して会場に行こうとするとお釣りを忘れていると言われて、チップのつもりで「いいよ」と答えるスティーブ。すると「私は25セントでレモネードを売っているの、だからお釣りを受け取って」。スティーブが折れてお釣りを受け取ると少女が微笑む。そしてスティーブは会場に臨む。
ここでお金で何かを買おうとばかり考えていたスティーブが町の人たちとイーブンな関係に変化している事が分かる。
そしてスティーブが会社ではなく一人の個人として本来の誠実さを発揮する決意を暗示している。

スーの選択
事が決した時、スーはいち早く会社に連絡を取って自らの立場を確保してますが、決してスティーブの決断を批判していません。ただ彼女にとっては仕事なのだと言って去って行く。彼女は家族がいて大事にしている事は電話やテレビ電話を掛ける彼女の姿で分かる。そういう決断が出来る立場にいない。その事を言いたかったのだと思う。
その未練は最後に雑貨店主との会話でも示されていたように思えます。

信念と信頼
アメリカは住民自治が徹底しているので大企業相手でもまだ阻止できる可能性はあったし、そこに本作の物語が見出されている。日本だと住民を二分してとことん対立、分断して事を運ぶ手法が使われますが、そういう陰湿さは本作では見られない。(近いものは冒頭にない訳ではないんですが。。。)

スティーブの決断は自分が正しいと信じて取り組んできた事に対して、会社側の不誠実なやり方に我慢がならなかった事が引き金となって為されています。何時の時代にも似たような問題はあっただろうし、スティーブのように誠実さに殉じた人もいるでしょう。実際にはスーのように行動するしかない事の方が遥かに多いでしょう。
そのいずれも映している所が本作でのリアリティーなのだと思う。