2013年10月14日月曜日

[映画] クロニクル

2013年10月13日(日)に岐阜のとあるシネコンへ遠征して見てきました。
東京2週間限定スタートで見れないなーと思っていたら拡大上映になって良かった。
ネタバレあります。もし近くで上映しているようであれば、情報なしにまずは見てみる事を強く推奨。
















あらすじ−−−アメリカの高校生3人、父親は朝から呑んで息子を殴り、母親は重い病で臥せっていて、学校では虐められているアンドリュー。アンドリューの従兄弟で本を読む聡明さを持つマット。学生会長の座を目指すような学園の人気者のスティーブン。この三人がある体験を通じて能力を得た事で親友関係になっていき、高校のショーで晴れがましい瞬間をつかみ取るが……。

知恵と工夫の映画
上映時間84分だったと思いますが、今年見た映画では間違いなく最短。それでいて内容の充実度は120分の映画のように感じられたのはいい映画の証拠の一つ。

本作の前半部は「キャリー」を、後半は「マン・オブ・スティール」を連想させます。
前者はリメイク版が公開予定になっていますが、確実にハードルが上げた作品です。
また後者は先に見ていて良かった。もし本作の後に見ていたら1時間ぐらいで席を立ったと思う。それぐらい脚本が練られていて上手い。

物語の語り手はカメラ
本作の異色さは、主人公の視点=カメラとして表現されている点。主人公アンドリューは「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」でゴスリングが扮したスタント・ライダーの息子として登場したデイン・デハーン。「プレイス」と似た役ですが絶妙。評価うなぎ上りもよく分かる。(代表作を「リンカーン」とクレジットするのはちょっとどうかなと)

デハーンを起用して本人視点ではあまり写らなそうなものですが、カメラを置いて食事したり、鏡で自分を撮るなどといった形でしっかり映る。
このカメラ、最初は旧式の大型ビデオテープカメラでしたが、事故で失われたので三人組の一人、優等生代表のスティーブが弁償するとしてHDDかフラッシュメモリを搭載した最新ビデオカメラをプレゼントした事でグレードアップ。
ここから超能力を使って空中から撮影するテクニックを習得して第三者的な撮影も織り交ぜるようになって行くといった形で主人公の心理状態をカメラをつかって上手く表現。
これが最後は監視カメラや警察ヘリのカメラなど完全な第三者視点に変わる事で何が起きているかを示している。
徹底的なPOV、Found Hootage形式に対する批判があるようですが、誰から見た視点なのかという事を織り込んだ事で、作中世界の視点を観客に共有させ、作品世界へ深く引き込む事に成功。またこの仕掛けがなければ何故マットが最後に苦渋の決断を強いられる事になるのか分かりにくいし、絵空事になってしまったはず。

運命の交差点
アンドリューの運命は父親と母親の関係に揺り動かされる。親友二人の助けもあって学園での人気者になれたかも知れないところで運命が暗転して行く。
アンドリューが運命を覆す機会は2回あった。
1回目はスティーブの死。父親からしばしば暴力を受けていたアンドリューが遂に切れて力を使って父親を制圧した後、嵐の夜空へと逃げ込む。そこへ超能力でアンドリューの様子を知ったスティーブが上がってきて降りるように説得するも、おりからの悪天候の中で落雷して感電死してしまう。アンドリューがもしスティーブの説得を受け入れていればというifを感じざるを得ない一瞬。
2回目はアンドリューの父親を巡るマットとの攻防戦。これがPoint of No Returnとなってしまう。アンドリューが母親の薬を手に入れようと強盗中に爆発事故が起きて自ら巻き込まれる。担ぎ込まれた病院の病室に駆けつけた父親からある事に対して難詰された事で、父親を殺そうとした所を従兄弟のマットが助けた事で、アンドリューの怒りの着地点を失う。もし父親がそのまま死んでいれば、あそこまでマットとの関係は崩れなかったのではと思わされた展開。
アンドリューの誤りが様々な誤りを産み出す構図になっていて、アンドリューの怒りが更に悪い方向へと物語を導いて行く。

戦いの描き方、痛み
アンドリューとマットのシアトルでの戦いは、「マン・オブ・スティール」(MOS)を連想させるものがある。ただ本作とMOSの違いは何かといえば、MOSがほぼ一貫して痛みが感じられない超人バトルが繰り広げられる一方で、最後には、ほら痛みもあるんだよという謎展開。
本作はまずスティーブの死とアンドリューが受けた傷によって、超能力があっても何もかも身を守れるのではない事が明示された上で、アンドリューとマットの戦いが繰り広げられる。これにより観客も二人の痛みを共有出来る展開になっている。

アメリカだなと思ったのは警察部隊がアンドリューの危険性を認識した後は先制で発砲した事。「撃たないで」と叫ぶマットと起き上がってなお力を使って戦いを選ぶアンドリュー。いつ発砲されるか分からないという状況の中でアンドリューとマットがそれぞれ下した意思がもたらした結果は苦いものをもたらす。

いくつかの雑感
・母親の病気。鼻から酸素吸入しており、呼吸困難に伴う激しい咳も。肺の病気であろうと判断されるところですが、呼吸器系の病は非常に苦しいもので、その点をきちんと描写していて辛い。ここまでやらないでも、とは思ってしまった。

・エンドロール、挿入曲のクレジットに中田ヤスタカ氏の名前が入っていたのですが、ググるとわりと知られた話だったらしい。

父から子へ
アンドリューとその父親はよく似ている。
 父親は元消防士で負傷後は保険金をもらって働いていない。ただ、これは病床についている妻の介護で家を離れたくないという側面(但しどこかに外出してしまっているが何をしているか分からないと語るアンドリューの話を考えると怪しいか)があるのは少ない描写から後で振り返ると分かる構成になっている。息子に対して母親の病状を上手く説明出来ず、結局殴りつける事でしか伝えられない。
 一方、アンドリューは母親思いに見えるが、その病状を理解は出来ていない。母親が一人でも出かけるし、高額な医薬品を買う為にビデオカメラを売らせようとする父親を負かしてしまう。
 病院での父親の一見逆恨みとも聞こえる語りかけ。確かにアンドリューを探しに行っていなければ、妻を看取れた可能性はあった。ただ、それを意識不明の息子の前で呪詛して、自分に対して謝れと求めるのは普通ではないし、コミュニケーション能力の不足が息子との間に壁を作っている。そしてその息子アンドリューはやはり同様であり、スティーブを失う原因となっている。
このように見て行くと、父から子へと負の伝播が起きており、そこから脱出出来たかも知れない能力が逆に作用して行く様が描かれた映画のように思える。

アンドリューの夢に対する手向け
空を飛んで旅行しようぜと三人で相談した時、ハワイを主張するスティーブに対してチベットを提案するアンドリューという対比について最後に話の落しどころを持ってくる等、緻密な脚本に支えられた作品です。上映館が限られていますが、もし身近なところで見に行く機会がある方には是非勧めたい傑作。見ないと損した気になると思います。

追記。MOS、トランク監督が撮っていたらと思ってしまいますね。やっぱり。