2013年9月2日月曜日

[映画] スタートレック イントゥ・ダークネス

2013年8月16日先行上映で2D吹替版を見ました。
(さらに9月1日3D吹替版でも見ました)
本作、IMAXカメラで撮影された部分もあるのでIMAX 3Dで見た方がいいかもというのは余談です。(通常3Dで見ましたが、冒頭シーン等IMAXカメラで撮られた部分は素晴らしいので本当にお勧めか)
注意:ネタバレあります。
































注意:ネタバレあります。

リブート版スタートレックは今回初めて見ました。(最初のリブート版は未見)
前作、地上で建造されるエンタープライズという信じ難い映像を見たので避けていたのが正直なところ。TOS/TNGファンの方の反応を見ていたら食わず嫌いだったかなとチャレンジ。

良い点、悪い点同居してますね、というのが正直なところ。やはり、最初のリブート版での地上で建造されているシーンが象徴されるように、これまで作中世界での航宙艦は宇宙に最適化されたものというデザインであり、リアリティラインだと思っていたのですが、そのデザインのまま地上で建造したり海中に潜らせるのはどこのヤマトですか?とは思わざるを得ないところです。

Story
惑星文明探査に赴いていたエンタープライズ。艦隊の不干渉規則に違反してその惑星の文明存亡に関わる火山爆発を防いだものの、スポックの救助の為に緊急発進したエンタープライズを原住民に見られてしまう。
地球に帰投後、その事を隠して報告したカークだったが、ありのまま報告書を書いたスポックの為に艦は取り上げられ、アカデミーに戻された上でマーカス提督が召集した査問会議に掛けられる事に。
パイク提督の奔走でカークの査問会議は回避されたものの、エンタープライズはパイク提督の元に戻り、カークは副長に降格。スポックはU.S.S.ブラッドベリーに転属する事になった。その時ロンドンのスターフリートのデータセンターがテロ攻撃を受け、犯人はジョン・ハリスン中佐と判明。サンフランシスコのスターフリート司令部で在地球指揮官会合が召集された。
カークはパイク提督に止められながらもマーカス提督の指名であえて発言する。「テロリストが単なるデータ保管所を襲いますか?このような事があれば艦隊指揮官が集まる場所を」
そして直後にハリスンの攻撃機が司令部会議室を銃撃。カークの反撃でハリスン機は撃退できたものの恩師であるパイク提督が戦死。それを看取ったスポック。
ハリスンはトランスワープ転送装置でクリンゴン帝国首都惑星クロノスの無人地帯に逃亡。カークはマーカス提督に単独潜入を志願。マーカス提督は開発中の新型ステルス光子魚雷で遠距離攻撃して抹殺するように指示した。
カークは再びエンタープライズを指揮。スポックを副長として戻してもらった中で、科学士官としてキャロル・ウォリスも乗艦する。
シャトルはエンタープライズのシャトルベイに着艦。そこではワープコアへの影響を懸念して新型光子魚雷の動力検査が出来ないのであれば受領サイン出来ないと主張するスコット機関長の姿があった。クロノスに急ぎたいカークは「サインさせたいなら解任を」と言ったスコットを解任して、チェコフに機関長に任命する。
クロノスにワープしたエンタープライズは、クロノス目前でワープコアが故障、通常空間に落ちてしまう。カークは犬も避ける喧嘩中のスポックとウフーラ、保安要員を連れて拿捕していた小型艇でクロノスに潜入する。そこでクリンゴン警備艇と交戦したところをハリスンに救われるのだった。
ハリスンを拘禁したカークは、ハリスンからある座標と72という数字をヒントを教えられる。カークは地球に残ったスコッティにこの座標を連絡して調査を依頼。あわせて72基搭載していたステルス光子魚雷の調査を行う。
魚雷の誤爆のリスクがあったため、近くの小惑星に1基を降ろしてマッコイとキャロルに分解調査させた所、その中から出て来たのは冷凍睡眠カプセルだった。
そして、地球からマーカス提督座乗の戦闘艦がエンタープライズの前に姿を見せた−−−−。
※パンフレットと字幕の用語は統一されていません。例えばハリスンの逃亡の装置は小型トランスワープ装置、ハリスン抹殺用の魚雷はプロトタイプ光子魚雷とパンフレットに記載されている。(吹替版は合ってました)

「カーンの逆襲」オマージュ
本作は当初「スタートレックII カーンの逆襲」のリメイク説がありましたが、敵役であるカンバーバッチの役名はカーンではなくジョン・ハリスンであるという事で否定されてましたが……実際はカーンの変名でした。この世界ではマーカス提督がカーンの船を回収していたらしく、”31 Section"という秘密部隊で兵器開発に従事させていたとの設定。
カーンはもともと遺伝子改良された人類として旧人類を支配または滅亡させようとして敗れて冷凍睡眠宇宙船で逃れた人物。本作でもいくら殴られても平気で怪力という設定。自分たちを利用しようという旧人類に対する怒りを押し殺して、仲間の救出と反撃の機を狙う人物として描写。

冒頭の艦隊の不干渉命令違反は「カーンの逆襲」のコバヤシマル救出作戦の変形に見えますが、このシーン自体はリブート版第1作に入っているとの話を聞くとこじつけかも知れないと思ったり。
艦隊命令を破って異文明を救い仲間を救う事を優先したカークとその事を隠す事自体良しとしないスポックの対立なんですが、そもそもリブート第1作でその手のエピソードやっているとの指摘を見るとちょっと話を巻き戻してしまった印象は受けます。

キャロル・マーカスは「カーンの逆襲」ではジェネシスプランの研究責任者であり、カークの元恋人で未婚の母という設定でしたが、本作ではマーカス提督の娘で、父が関与する謎のプロジェクトを追う女性として登場。

カークが放射線で危険な状態のワープコア室に飛び込んで修理するシーンは「カーンの逆襲」ではスポックが行って亡くなるシーンに由来。(TOS版はこの後スポックを取り戻して艦隊に戻るまでのストーリーが2作続く)

「カーンの逆襲」はTOS映画版では屈指のエンターテイメント性を持った作品です。
そこに目を付けて、カーンを逮捕するのか、暗殺するのかという命題を提示したのはスタートレックの時事批評性を織り込んだものとして評価出来ます。
TOSもアフリカ系女性士官をキャスティングしたりと様々な時事テーマを作中に取り入れて理想とは何かを提示してきましたし、TNG以降も踏襲されてきたところ。
この観点で本作もスタートレックの系譜につらなる作品なのだと思った次第です。


リブート版の惑星連邦世界の謎
  • クリンゴン帝国の首都星系クロノスとの距離表現がない。瞬間的に到着しているように見えてしまう。スコッティいわく「俺が1日いないだけで」というぐらい近いらしい。
  • (上記に関連しますが)ハリスンが逃亡に使ったというワープ転送装置があるなら航宙艦なんて要らないのでは?
  • 戦闘能力、軍事力を有さないらしいスターフリートなのに何故か軍帽という違和感。
まあ、惑星連邦の世界の広さについてはTV版、映画とコロコロ変わって来た面はありますが、ヴォイジャーのように違う銀河象限に飛ばされてしまう物語があった事を考えるともう少し先達に気遣いして欲しいところだとは思います。航宙艦の存在意義はスターフリートの存在意義と同義でもありますし。。。


航宙艦の艦長/副長は高校生?
軍の階級制度を導入しているのに命令・規則に無頓着な艦長の高校生、大学生の軽いノリとそれに対して違反に手を貸してから「告発」同然の報告をする副長の行動が謎過ぎます。あと職場恋愛シーンも。まるでTOS版カークの手の早さがスポックに憑依しているみたいですが、それでも部下には手を出していなかったと思うんですが。
パイク提督が教え諭すシーンを見ていても学校の先生が叱っているようにしか見えないのは軍事組織または準軍事組織としてはどうかなと。
(この印象、吹替版を見るともう少し薄れます。字幕にはそこまで配慮なし)

ウフーラがより強い女性として描かれるようになったのはリブート版世界では納得いく描写ですが、作中、艦内でキスするシーンは必要なのか(これは組織論としてリアリティを疑わせる)というのは残念。安直な選択に見えます。

スコット機関長はどこのギークかと。またチェホフの自信無さげさは大学や高校のスクールカーストトップのスター学生にあごで使われる学生のように見えて、演出が間違えているようにしか見えません。スコット機関長は新しい人物としてまだ見てられますが、チェホフはやり過ぎではないかと。。。

ドクター・マッコイは一番TOS版に近いキャラクターとして描写されていましたが、これは役者の演技力のおかげではないでしょうか。一番安心して見ていられました。


航宙艦機関室=工場?
に見えました。艦橋や拘禁室のデザインはTOS/TNG世界の延長上にあると思うのですが、機関室だけはまるで工場でしかも無駄な空間が多く、他のデザインとのバランスが撮れていない印象。現代的テクノロジーの延長上で描くなら艦船や潜水艦の機関室を参考にして欲しいなと思った次第。あれでは本当に単なる工場です。
※パンフレットによると機関室のシーンはアメリカの核融合研究施設そのものとの事。

ところでワープコアって精密機械じゃないんでしょうか。カーク蹴り過ぎです。あれで所定の位置に合うというのはカークのキックが恐ろしく精度が高い職人技に違いありません。あれならスコッティとチェコフはいらない。(苦笑)


本作の独自性
「カーンの逆襲」を下敷きに今起きている事を織り込んだ上で、従来のスタートレックでは薄かったアクション要素を強化した作品としては面白いところも数多かったのは確か。
特にカークとカーンがマーカス提督の艦に乗り込んでいくあたりから、いつカーンが裏切るか分からないという状況でのマーカス提督の排除、カークを裏切るカーンとの死闘。
そしてカーンを出し抜いてみせたスポックとドクターマッコイの奇想天外な作戦あたりはTOSの風情もあって良かったかなと。
カークを救う手を思いついたのはドクターで、その事をスポックに伝えに行ったのがウフーラというあたり誰が大人のキャラクターかよく分かります。(再び苦笑)


まとめ
航宙艦機関室デザインと宇宙の距離表現は真面目にやらないとそこで現実に引き戻されますのでご勘弁を。(機関室はアメリカの研究施設をそのまま使ったとの事)
あとカークとスポックはもう少し艦長、副長としての責務を果たして頂きたいところです。(字幕版での感想です。吹替版だとパイク提督の呼び出しシーンでのカークのおばかさんぶり以外はかなり違って見えました)
スターフリートという組織があの世界内ですら破綻して見えます。今回だとマーカス提督の判断が普通でしょうし。前者は美術面、後者は脚本でなんとかなると思うのですが。
もう少し大人向けにはして欲しいところです。




3D吹替版を見て〜字幕版の限界について
 英語台詞「Captain on the bridge」
 字幕版 「艦長が帰還しました」
 吹替版 「艦長が艦橋へ」
私が分かる英語なんぞ知れているのですが、このあたり海軍の用語転用している訳で調べれば分かりそうなところ。吹替版はちゃんと対応していますが、字幕版は意味不明な翻訳になっていて謎。文字数で問題になるような箇所でもないと思うのですが。
トランスワープ転送装置も字幕版では謎の翻訳になっていて意味が取りにくいという箇所が多数あって、吹替版で見るとまるで作品イメージが変わりました。
本作については字幕版を見てもカーンの長台詞など意味がわかりにくい所多数ですので、吹替版で見た方が意味は分かりやすく面白いと思わざるを得ません。

2回目を見て感じた作品のディティール

  • 海中から発進するヤマ……じゃなくてエンタープライズ。スラスター噴射するエンタープライズ。このあたりはどうも好きなれないです。重力制御、慣性制御が発展した世界の航宙艦としては納得し難いといったところ。
  • Prime Directive=「艦隊の誓い」って誰が作った訳語なのだろう。TOS小説版だと斎藤さん別の訳語当てていたと思うのですが。
  • 指輪。カレッジリングに見えます。軍だと士官学校や部隊で記念に作るものらしい。WikipediaによるとClass ringと言うのが正しいようで企業や職業で作る場合もあるとの事。
  • 撃墜されたハリスン機。墜落直前にコクピット内は転送の光で包まれる。翌日現場検証したスコッティがトランスワープ転送装置を発見して転送先を発見する。
  • 転送されたハリスン。映画ではダイレクトにクリンゴンの首都惑星クロノスの無人地区に降り立ったように見えます。
  • 座標はまるでIPアドレスのような数値4個。今時のリアリティでしょうか。風化しない事を祈ります。
  • マーカス提督のオフィス。歴代艦艇のデスクトップモデルが並んでますが、最後の分はドレッドノート級に見えました。これ、秘密じゃないのか。
  • 吹替版でのパイク提督やカーク、スポックの会話を聞いていると、大佐としてのCaptainは存在せず、中佐が役職として艦長職に任命される形式に見えます。
  • 父親の艦に収容されたキャロル・マーカス博士。父親との対面では父親が叩くかなと思いきや娘の方が先に父親の顔をひっぱたくという展開。女性の強さが目立つ演出。
  • TOSにあったボースンの笛はないんですねえ。