2020年1月7日火曜日

映画「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」すずさんの視界と8月15日の旗、今も残る社会の分断・差別について

1.戦争をフィクションで描くという事

 私は原作もアニメーション映画版も大ファンなのですが、この作品にはこの要素がなく危ういといった批判について反発を感じる。こうのさんが「戦争を描くという事」(「平凡倶楽部」所収)で指摘されてますが、フィクション作品において特定の要素がない事をあげつらう批判があるのは戦争ものだけでは?との事。こうのさんは現代もの、SF的な要素を含んだものなど幅広く書かれていますが他の作品ではこの種の批判がない事を踏まえてのお話です。




2.昭和20年と2020年のつながり

 植民地から来られた方(出稼ぎや求人に応じた人、強制的に連れてこられた徴用工の人で合計200万人に及ぶ。広島、長崎で被爆された方も多い)が多くいたであろうに出てこないのはおかしいとの批判なんかは典型ですが、戦時中の民間人であった人達の日記には確かに驚くほど出てこないのもまた事実です。
 外交評論家の清沢洌は朝鮮半島から来た人の言葉を日記に書き残していますが、彼らの戦争観(日本が勝とうが負けようが朝鮮の立場は良くなる事しかないだろうと見切っていた)について話を聞いていて書き記したものでありました。
 小説家の伊藤整や当時沖電気で働いていて医学校の学生となって敗戦の日を迎えたのちに小説家になった山田風太郎の日記では植民地や外国から来た人達の存在は触れられる事はありませんでした。


 今、外国から日本に働きに来られている人は増えていて電車などでもよく見かけます。駅前には公共施設しかないような小さな町の行政書士事務所は外国人就労者の受け皿機関の事務所を兼ねていたりしており急速に外国人の存在は増している。でもその一方でコミュニティが分かれており交流が進んでいるようには見えない。
 昭和19年〜20年当時もそういう状況にあったとしたら職場が一緒といった事でもない限りつながりが生まれるような事はなかっただろうと思う。
 このような状況は戦前・戦中と現代において外国から来られた人達を単なる労働者の数としてしか見てないから生じる現象なのだと思う。歴史となった過去においても現在においても到底ほめられるような状況ではない。

 この観点での「片隅」は全く異なる視点の話となる。ただ今も昔も我々の視野に入えいにくい別の場の視界、視点にならざるを得ないコミュニティの分断は問題。それは相手を認めていない事になる。だからこそ危機感を持たなければならない。


3.フィクションとノンフィクションの役割

 「この世界の片隅に」での8月15日に太極旗がはためく所を入れて帝国日本の支配・被支配の関係、戦争という暴力との関係を示すのが原作、映画における演出によりこの問題について触れる最大の努力であり限界だったと思う。これはフィクションが主観・客観を問わず視点が存在し、視野に限界がある事やそれを無視して無理をすると物語が破綻してノンフィクションで箇条書きにして分析して行くべき事柄に変質する。
 ノンフィクション、歴史学はあらゆる事象の相互影響も加味して分析していく事は不可欠です。これらの書籍では項目を立てて書き足すといった手法も使える。
 フィクションは神視点を取ればなんでも入れられない事はないが、それでは個人を主観視点で掘り下げる描写は難しくなる。登場人物の主観もしくはそれによりそう視点で描く限り登場人物の視界に入らない事は直接は描けなくなる。それは弱点であり強みでもある。
 フィクションは史実への興味を持ってもらい調べてもらうための入り口になり得る。ノンフィクション、歴史書は個人の証言、統計、各種書類などを元に実際に何が起きたか迫っていく事が出来る。それぞれ役割はある。ノンフィクションでやるべき事をフィクションに求めるのは間違いだと思う。


4.最後に 8月15日の旗が意味するもの

 だから作品というか作品を観るに際して何故旗だけになってしまうのか、作品にその要素が入らなかった事を作者の思想性に求めるのではなく当時と今の社会について踏まえて語るしかない。
 もっとヒントを作中で出されていれば良かったとは思うのですが(とは言っても上手いやり方は思いつかない)、フィクションにおいて説明的な提示は観客や読者に考えさせる事が出来ない。だから問題提起するのであれば、何故主人公の視界に旗しか意識されなかったのかその理由はこうじゃないかというアピールの方が意義があると思う。
 それはあの当時、そして今も残る都合の良い労働の輸入でしかない故に生じる社会の分断である事が分かると思います。決して終わった話じゃないどころか現在進行形であるといって良い。その事を我々はもっと自覚しなければいけないと思う。

参考)
・「戦前期日本海地域の朝鮮人労働者」内藤正中 https://ci.nii.ac.jp/naid/110006934866