一応解説的なものも狙ってますが、ネタバレ全開ですのでご注意下さい。
1. 地球
- インド空軍ドローンが野良化しているのは世界の軍が解体されていてなくなっていて、米国ですら国家安全保障省のような国境警備の部局が無くなっている事を暗示。
- ビール瓶らしき中身はどこから来ているのか。食料危機が軽く見えてしまう。(コーンベースの酒なら別ですが蒸留酒になると度数高そうでビールのような瓶には入れないんじゃないか)
- GPSが稼働しているようですが、GPSは人工衛星があって成り立つテクノロジーなので宇宙を放棄した人類では保持出来ないのでは。。。(GPS衛星には寿命があり、後継衛星が打ち上げられて維持されているシステムです)
- オクラとコーンが農作物の主体に。そしてオクラも終わりだという。。。オクラ自体英語なのですが(日本でも一部地域で植えられていたが、海外から入ったオクラで普及した。日本古来の農作物という訳ではない)、本作で選ばれた理由は何でしょうね。南部方面の料理では使うようですが。
- 「アイルランドのジャガイモ」(歴史的には飢饉で有名)などかなりきつい状況を想起する会話も。
- 「アポロ計画はソ連を打倒する為に仕掛けたアメリカの秘密作戦でした。」が改訂版の教科書に書かれているという世界。クーパーは呆れて娘への指導を求める女性教諭に対して「娘は野球が好きだから連れて行く」と大人げない回答をして、停学処分を引き出してしまう。スペースシャトルの撤退以降、宇宙に対する目線が後退しているのでは?と考えるノーラン兄弟からの強烈な批判。
(これが「2001年宇宙の旅」に対する讃歌だという解釈を読みましたが、ノーラン監督のインタビューなど読む限り過去の宇宙開発史に対して現在後退していると考えているノーラン監督発言や現実にそうだと考えている人たちがいる事を考えるとありえないと思う)
- 謎の座標のフェンス、看板は「NORAD」とちらっと出ていたように見えた。クーパーが疑わなかったのが不思議なんですが、軍出身パイロットではないという事かも。
- クーパーは「NASAは飢えた人々の真上に成層圏から爆弾を落とす事を拒否した事で解体された」と思っていた。
ブランド教授は「政府が他の人を殺す事が長期的な解決策ではないと気付き、呼び戻されてこの古いNORAD施設で秘密裏に準備を始めた」とクーパーに説明。NASAが解体された事はなかったらしい。(その後で「こんな事は公に進められない」といった会話があるので、解体されたように見せかけられた可能性もありそうですが、ノベライズでは解体されたと記述)
2. エンデュアランス号と搭載船艇たち
- エンデュアランス号の名前は英国の南極探検船由来の命名と見られる。この船は南極のウェンデル湾で氷に囲まれて航行不能となり、船体が氷で圧壊して失われた。探検隊は船が失われる前に資機材を揚収しており探検隊自体は活動を継続して映画や写真等調査記録を多く残して帰還している。
- エンデュアランス号の推進システムは謎が多い。特に推進材の搭載スペースが見当たらない。恐ろしく効率の良い推進機を搭載している。また構造材もあれだけの被害を受けてなお崩壊しないのは大変なテクノロジーだと思う。(ヤマトの技術がイスカンダルからの供与という設定はこの点を巧く逃げた例)
- エンデュアランス号からレンジャーが離脱するシーンは「B-29からX1が発進するように」との状況説明が脚本に書かれている。(X1は世界初の音速突破を成し遂げた実験機で空中でB-29から投下されて発進した。「ライトスタッフ」はこのシーンも描いている。映画オマージュと取るか、史実由来と取るか。X1はスミソニアン博物館に展示があり、宇宙開発史を踏まえて入れて来たのではないか)
- 何故レンジャーはサターンロケットのような化学反応エンジン搭載ロケットで打ち上げられたのか謎。向こう側の惑星探査ではレンジャーやランダーが自己打ち上げ/大気圏再突入で大変性能高い所を見せつけていますし。
3. 海の惑星
- 最初の惑星降下でエンデュアランス号側は23年という時間経過(1時間が地球の7年間に相当)、レンジャー側は3時間強なので惑星上の描写から見て往復の加減速時間が大半ではないか。
- 最初の惑星探査中、軌道上で23年も待つ羽目になったロミリー博士。冬眠せずブラックホール観測に従事されていたようですが、エンデュアランス号の食料・水がそんなに持ったのかが謎。水はリサイクルするにしても食料の説明が付かないと思う。(断続的に冬眠していたなら話は別ですが)
4. マン博士の惑星
- クーパーがマン博士の惑星で地球帰還を決意しているのは、通信が受信のみで「居住可能惑星発見」の報告が出来ない状況の為。家族との関係が度々出てくるので分かりにくくなっている部分。加えてブラックホールの事象の地平線の向こう側でしか観測出来ないデータの取得意図も観測に当たってきた博士によって付け加えられていた。
- マン博士のクレジットはエンドロール最初の主要キャスティングロール部分では出てきません。"In order of appearance” 詳細キャスティングロール部分で初めてクレジットが出てきます。アメリカでも公開前情報統制掛かっていて公開されてなかったそうで。ただ日本語版パンフすら彼のクレジットや紹介がないのはやり過ぎですね。
5. 愛の力?
- クーパーがアメリア・ブランド博士の恋人が第3の惑星に降りたエドマンス博士を見抜き、アメリアがそれを受けて愛は計測可能だと叫び出すというのは全てクーパーとマーフの「通信」可能性を実現する為のお膳立てですね。「愛」という要素を作品にぶち込む為のノーラン兄弟の脚本、演出の無理な力技。もう少し演技で語らせて欲しかった。(特にアメリア)
6. 五次元空間、そして・・・
- 重力波で時計の針を都合良く力を加えられるんだろうか?
- ガルガンチュアへのスイングバイでのTARSの台詞はクーパーと示し合わせた事が分かる。
- 五次元空間を誰が作ったかは謎。クーパーとTARSの間の会話では未来の誰かと推定しているが姿を見せる事はなかった。
- クーパーがNASAの座標を知っているのはタイムパラドックス説がありますが、この座標を知っていたのはTARSでクーパーが2進法にして教えろというやりとりがある。
- クーパーとTARSがワームホールから放り出された際の速度ってどうだったのでしょうね?土星軌道上の人類宇宙船が捕捉出来るほど遅かったのは奇跡では?(映画上の奇跡の可能性も。科学考証って時に邪魔だと思うので別に構わないんですが、であれば過度に科学考証肯定するのは止めた方がいい)
- ステーションの軍用単座機(脚本ではレンジャーの末裔らしい)が何の為の配備か謎。クーパーが戻った世界の情勢、描かれてない所が多い。
7. エトセトラ
- 冒頭カットインされてくる「証言ビデオ」、1930年代の農地砂漠化を描いた「Dust Bowl」あたりの手法を取り込んだのでしょうか。(「Dust Bowl」証言シーンそのものを入れていると解説しているサイトもありますが、最初の一人目は異なると思う)
- このシーンで分かるのは世界は生き残るという事であり、エピローグでその正解が最初の一人目の「証言」が誰だったのかで示されている。
そういう過去を振り返ったものなので当然そういう読み筋になる訳ですが、それ以上でもそれ以下でもない。冒頭10分見て最後のオチが読めるという人がいたら勘違いしていると思う。 - また地球での展開で「未知との遭遇」を想起させられる展開がありますが、誰が送って来ていたのか可能性は2パターンあります。どちらか一方が当たれば「先が読めていた」という事言われているように見受けられる方多いですが、本作の話の核はそこに到る長い時間の物語を見せる事にあると思う。このあたりSFファンに多い反応のように見えたのですが、物語の楽しみ方を忘れているんじゃないだろうか。
- 冒頭のオルガン、土星へ向かうシーンは映画「2001年宇宙の旅」、座標を伝える所は映画「未知との遭遇」、TARS/CASE/KIPPロボットは映画「サイレント・ランニング」の作業ロボット、レンジャーのロケットによる打ち上げシーンは映画「アポロ13」、ブラックホール「ガルガンチュア」へのスイングバイでのブースターは映画/小説「2010年宇宙の旅」、土星軌道からの帰還は小説「3001年終局への旅」へのオマージュが含まれているように見えます。
- 原企画から言えば「コンタクト」の影響も。そもそも同映画のワームホームはキップ・ソーン博士による考案ですから。
ぶつぶつ書いていますが、弱点より長所の方が遥かに大きい映画だと思います。なんといってもクーパー役のマシュー・マコノヒーに当て書きされたとしか思えないキャラクタ造形とその演技、TARS/CASEたちロボットの新しい形が素晴らしい。ノーラン兄弟の作品は当たり外れが大きいんですが、世界が狭い(「ダークナイト」「インセプション」)、登場人物が少ないと当たるかなと。本作の場合は世界は広いですが登場人物に大統領など政府関係者はほとんどおらず、冒頭の地下基地会議室の登場人物からエンデュアランス乗員が出ていたりとともかく人数を増やさない方向で作られていて、彼らの作家性に向いた作品になっていたと思います。
会話が変とか、長尺でつまめるはずとかいう人にはダメな作品だと思いますが、私は面白かったし、今冬の良作の一本としてお勧めですね。
追記)amazonでインターステラの英語版脚本とストーリーボードが販売されています。Kindle版だと1,032円(2015/3/3時点)とさほど高くありません。ノーラン兄弟インタビューもありますが、こちらは長文で読解力要しますが、脚本は短い会話なので分かりやすいですし、字幕では反映しきれてない内容を調べることができますのでお勧めです。
会話が変とか、長尺でつまめるはずとかいう人にはダメな作品だと思いますが、私は面白かったし、今冬の良作の一本としてお勧めですね。
追記)amazonでインターステラの英語版脚本とストーリーボードが販売されています。Kindle版だと1,032円(2015/3/3時点)とさほど高くありません。ノーラン兄弟インタビューもありますが、こちらは長文で読解力要しますが、脚本は短い会話なので分かりやすいですし、字幕では反映しきれてない内容を調べることができますのでお勧めです。
また英語は苦手という方であれば、ノヴェライズの邦訳が出ていますので、こちらと対応みると分かりやすいとは思います。