もしも死にかけている夫をコンピュータに転送出来るなら?というジョニー・デップ主演のSF映画。面白い描写が結構あります。
ネタバレがありますのでご注意を。
ウィル(ジョニー・デップ)は世界でも最先端をいくAI研究者。ポロニウムが埋め込まれた銃弾を浴びて、ポロニウムのα線による中毒で死に至ると宣告される。
ポロニウム中毒についてはロシアの元FSB職員リトビエンコ氏が英国で亡くなるという暗殺事件で使われたとされる放射性物質です。ジョニー・デップが映画化を検討していた話があるようで、Wikipediaのリトビエンコ氏の項に記載があるのですが、本作と何か関係あるのか知らん。
ウィルの「転送」、妻イブリンは「彼を救うにはこれしかない」という表現で「save」と言う。この下り、コンピュータ的なセーブを連想する翻訳字幕の方が面白かったと思いますが、米国の観客の人はどう捉えたのか。またそういうダブルミーニング的な意図でこの動詞を選んだのか。
「転送」はウィルの頭蓋骨に電極の埋め込み。そしてウィルに単語をABC順でひたすら読ませて、その際の脳波(?)のパターンを記録。脳の思考そのものをコンピュータに移せる訳ではないので、脳波パターンからどのような言語中枢の働きがあるか記録して、脳の活動をコンピュータでエミュレーションするという事なのか。この辺りは人間の脳をエミュレートする仮想マシンを作るという発想で考えると納得出来そう。
後半でてくる生まれた時から盲目の青年がナノマシンで目が見えるようになるという所があるのですが、この場合、治療出来たとしてどのように見えるか理解出来るのだろうかという疑問が残ります。あとナノマシン治療者が何トンもの部品を持ち上げられるという話も人の骨格を強化したとしても無理じゃないかと思います。筋肉が切れるか、骨がくだけるか、どちらかが起きて押しつぶされるかなと。
ウィルの拠点となるデータセンターは荒野の過疎の町の不動産を片っ端から買収して一から作る訳ですが、米国だと私有地立入禁止は簡単(ハワイにはある一族が私有していて認められた人しか入れない島も。またゲーティッド・コミュニティのように富裕層が居住するエリアを塀等で囲いその住民しか入れないように警備員やセキュリティを講じる例もある)なので、防護措置を講じないというのもちょっと不思議。
本作の致命的な問題は大統領の不在でしょうか。ウィルを攻略する為、基礎になったコードを書いたマックスが「ウィルス」(まるで生体)を作るという展開で、このウィルスを使うとウィルが既にネットワークに拡散しているので、インターネットやコンピュータ、通信網が使えなくなるとの展開になります。
このような作戦はそもそも不正なコンピュータシステムの破壊になりますし、大統領の裁可があっても合法か疑問なんですが、その大統領への作戦の説明や許可等の描写が一切ありません。ウィルが危険だからやってしまえという展開で終わり。
そもそもですね、AIの研究者としてタガー教授(モーガン・フリーマン)が出てくる訳ですが、何故大統領として出演させないのかと思う。
現地作戦なんてFBI捜査官がいるからそれでいいじゃないですか。その捜査官から違憲具申を受けて世界を救う為に電子機器をもろとも破壊を命じる前に普通は現地で降伏勧告なり和平交渉するのが常識だし政治というものですが、そういう描写は一切なく、危険だし電子機器が使えなくなってもいいから殺れという展開が実に変。
冒頭の設定は比較的がんばっていたと思うだけに中盤からの失速が残念な作品です。
ただ、荒野のデータセンターでウィルがイヴリンに対して感情の乱れを指摘する際、うっかりホルモンの変動等指摘して「あなたは私の何を知っているのか」と言われて、リアルタイムで生化学検査をやっているよばりの説明があった所は、なんでもデジタルデータにして入手したがるGoogleへの揶揄かなと大変爆笑させていただきました。
こういう現実への皮肉、批判がもっとあれば良かったのですけどね。本当に惜しいです。