インビクタスは13日、レイトショーで鑑賞しました。
とある郊外のシネコン。21時前開始にも係らず、1/4程度の客の入りと思っていたより多い印象。
2時間超と眺めの作品ですがテンポよく無駄のない構成のせいか時が経つのも忘れて作品世界に没入出来ました。
(邦画で酷いのは時計を見て途中で「私の人生の時間を無駄にしてくれている」と離脱する事も多いので……。)
政治とスポーツという危険なテーマを嫌味なく描き切った作品だと思います。
この映画世界で大統領がチームに対して具体的に依頼した事はラグビー協会会長経由での「子供たちへの教育活動の実施」ぐらいで、後は名前を覚えて「Good Luck!」と握手しただけ。
フランソワ主将を呼んでの対談でマンデラ大統領が「優勝してほしい」とは直接言っていない描写が最大のポイントだったと思います。
ここでもしマンデラ大統領が「フランソワ(主将)、我が国には優勝が必要なのだ」と直接言っていたら台無し。
独裁国で「勝たなかったら流刑だから」とか言っているのと違いはなくなります。
このあたりは観客には何でもかんでも言葉にして伝えないと伝わらないと信じているTV系邦画監督には出来ない表現じゃないでしょうか。
あと一つ決定的なポイントは「赦し」による「融和」を実現するための手段としてのラグビーであって、マンデラ大統領個人の政治的野望ではないとした描写によるものだと思います。
ラグビーの描写は分かりやすくシンプル。というかどうみても肉弾戦。
これはアメリカ公開の映画である事を考えると当然の措置でしょう。
ラグビーはアメリカのスポーツじゃないですから。
これは映画での描写として考えるとテンポの良さにつながりプラスに働いたと思います。
叫ぶのは選手だけ。政治は淡々とリアルスティックに描写。
クリント・イーストウッド監督とモーガン・フリーマンが世界に問いかけた一作だと思います。
但し1点だけ気になる点があります。それは南アのその後です。
エンディングでラグビーを興じる黒人の子供たちの描写が差し込まれています。
これはこれで良いのですが、近々南アで開催予定のサッカーワールドカップでは犯罪率の上昇が取りざたされています。1995年で国がまとまる事が出来たのに15年で何があったのか。映画の本筋から離れてしまいますが、気になるところです。
同じアフリカテーマだと「ルワンダ銀行総裁日記」も同じ問題を孕んでいます。
中公新書の新版では著者によるルワンダの大虐殺問題について分析する論文が追加掲載されていましたが……。
南アの話はたかだか15年前であり、現在進行形のテーマを歴史として取り上げています。
であるとすれば、1995年以後を少し触れていただいても良かったように思えます。
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20日放送のTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」内の「シネマハスラー」をPodcastで聞いたのですが、あの批評に勝るものはないでしょう。
史実故に前提となる知識が必要との指摘は、本作の評価が日本では分かれるであろう可能性を見事に説明出来ていると思います。この事でラグビー描写の軽さ、マンデラ大統領の家族関係の問題の描写の少なさが説明出来るとの説明で納得。歴史等で少なからずつながりを持つ欧米の関心の強さは日本とはまた違ったものではないかと思います。