2016年8月10日水曜日

「シン・ゴジラ」法律面の検討/自衛隊と米軍の武器使用について

「シン・ゴジラ」での自衛隊法、日米安全保障条約、災害対策基本法の適用について妥当性が一部欠いているように見える。これは映画世界においてある出来事が起きてないと解すると理解できるが、それでも問題は残る。この点について検討してみたい。

ネタバレが含まれます。映画を見られた方のみご覧下さい。














1. 現実世界におけるゴジラ的な事象に役立つ先例と発言
 自衛隊のゴジラ的事象への対処については何気に先行事例や大臣発言があるので、これらについて紹介しておきたい。

(1)災害派遣での火器使用の先例
 1974年第十雄洋丸事件では東京湾内川崎沖でLPG/石油混載タンカー第十雄洋丸が衝突事故から炎上した事案では一度鎮火・船内捜索後、湾外へ向けて曳航中に再炎上に到り、海上保安庁から海上自衛隊へ撃沈させるように要請が為された。これを受けて護衛艦、潜水艦、対潜哨戒機が災害派遣され、砲雷爆撃を行い第十雄洋丸を木更津沖に沈没させている。(参考資料
 本作では防衛省事務方が「東京湾内での武器使用例がない」といった意味の事を発言しており、実は第十雄洋丸事件がなかった世界の可能性がある。もしそうだとしたら防衛出動を適用するための措置なのではないかと想像している。

(2)防衛大臣の記者会見コメント
 2007年12月20日の防衛大臣記者会見(石破大臣)でゴジラ的なものが出現した場合の対処について問われて、災害派遣で出動する事になるだろうと答えている。


2.自衛隊の出動要件、日米安全保障条約と米災害派遣根拠法
 自衛隊法では防衛出動、治安出動、災害派遣などが定義されている。本作では災害派遣での火器使用例がないとされている。また東京都知事が害獣駆除のための治安出動(!)を要請しようとするシーンもあったが、最終的に首相が超法規的措置での防衛出動という選択を行っている。

 また、この他に災害対策基本法の災害緊急事態が発令されているが、この法令は災害対応の為の法令であって戦争などの有事法制ではない。防衛出動と組み合わせて適用するような事は通常考えられないが、有事と災害法制の中で使えるものを超法規的措置として組み合わせたという事だろうか。

 日米安全保障条約も発動を求めているが、本条約は「武力攻撃」を想定している。自然事象として考えられるゴジラに適用は適当なのか疑義が残る。
日米安全保障条約 第五条  各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。

なおアメリカは海外支援法(FAA=Foreign Assistance Act)という国際災害救援に関する法令を持っている。この中には国家的被害管理(核・生物・化学兵器による事案への対処)への対処を定義した条文も含まれているので、ゴジラについてはこちらを適用して対処という選択肢も考えられる。(石原敬浩「米軍における HA/DR の変遷」海幹校戦略研究 2011 年 12 月(1-2)

 通して検討してみると防衛出動ではなく災害派遣+災害緊急事態の組み合わせで充分に思える。ただこの映画世界では第十雄洋丸事件が起きてないらしいので、武器使用が前提になっている防衛出動の方が望ましいものと判断したという事なのだろう。


3.(余談)自衛隊と米軍の武器使用
(1)タバ作戦での攻撃火器の段階的拡大
 タバ作戦での武器使用を見ると低威力のものから順に使われている。(対戦車ヘリの20mmバルカン砲、30mm機関砲、対戦車ミサイル、戦車主砲、自走砲、対戦車・舟艇ミサイル、MLRS、JDAM(おそらくレーザー照準対応型))
 また照準方法も直接またはレーザーなどで誘導できるものを使っていて誤射などによる周辺被害を最小化する事も意識されているように見える。自衛隊が市街地で対テロ戦闘を行う場合、このような段階的火器使用という現実的な描写が為されていて映画的に見栄えする演出は採用されていない事が分かる。

(2)米軍の攻撃
 米軍に関してはMOP2爆弾はおそらくレーザー誘導で直撃を狙って落とされているが、作中では想定される爆撃被害範囲がかなり大きく取られていた。(実際は直撃か迎撃で空中で爆破されており決定打には到らなかった)

 ヤシオリ作戦ではイージス駆逐艦からトマホーク(ブロックII)が発射されているが、これは筆者の誤認でなければ建物に対して打ち込まれており、ゴジラ自体の攻撃には使われていない。移動目標に対してトマホーク(ブロックII)は使えない。何らかの都合で目標に爆薬を仕掛けられなかったという事だろう。
 プレデター/リーパー系無人機による攻撃の選択はレーザー照準でミサイルや爆弾を誘導して直撃を狙える事を前提に放射熱線で撃墜される事も見込んで投入されている。有人戦闘機・爆撃機では近づくだけで要撃されるのは見えているので、合理的な当然の選択だと言える。

 ところでSLBMについては迎撃を受けないんだろうか?多分ここは検証漏れなのだろうと思う。地上に核弾頭を設置して起爆する方が良いと思われるが察知されずに済むのかという疑問点は残る。