胃が痛くなるような緊迫感に満ちた映画。占領されたフランスの片田舎にドイツ軍が進駐して民家に分宿する。その中で様々な出来事の連鎖が起きる。
以下、ネタバレも含まれます。
ドイツ占領下フランスで何が起きたのか
戦場からの避難民。
土地を持つ富裕層と小作農。
ドイツ兵に接近する人とそれに反感を持つ人。
若いドイツ兵と恋に落ちる女性。
フランス人を見下すドイツ兵。
ドイツによるユダヤ人排斥そしてホロコーストに到る道程を占領地にも広げた様子
……様々な人間模様が描かれる。
戦争映画は銃後の方が怖い。それが占領地で占領された側として見るならなおの事。
本作中で因果は巡る。その連鎖が行き着く先の一つの描き方に本作のリアリティラインの有り様が示されている。
ビーヴァー&クーパー『パリ解放 1944-49』では解放後のフランスで対独協力者の烙印が社会的弱者である女性に向きがちで政治的に協力した人々に甘かった事を批判していますが、どのような対立関係が起きる火種があったのか本作はきちんと描写している。
東部戦線のドイツ兵と占領地の女性に対する関係についてまとめた歴史書があるのですが、その中で兵士の後方地での日常を撮った写真が掲載されており「ドイツ軍兵士と占領地の一般市民と交流はあった」との解説が付されている。
こういった事を念頭において映画での描写を見ると現実にあった事をリアルに描いて見せている事がわかる。
未完の小説をどのように映画化されたのか
本作は第2部「ドルチェ」の映画化といって良い所がありますが、このパートは音楽的な言い方をすれば緩徐楽章であり、第3部以降に出てくるヒロインを舞台に出すという狙いのためもっと穏やかな物語とされていた。実際ページ数も短めにすると構想していて残された第1部、第2部見てもそのようになっている。(但しネミロフスキーの構想メモを見ると「組曲」の音楽的な約束事に合わせる事まではされていなかったらしい)
映画中でブルーノが演奏した自作曲「ドルチェ」。映画中で楽譜に書かれていた「フランス組曲」と書かれていましたが、原作タイトルの由来はこの小説を音楽の組曲に見立てた5部構想に由来するものだろうと思う。
作中のピアノ曲「ドルチェ」は映画音楽で数々の傑作を手掛けているデスプラが別途起用されている。キャストといいスタッフ陣の起用も力が入っている。
映画終わりのモノローグはネミロフスキーのメモに基づいたものになっている。残されたメモから見て原作が完成していれば第3部以降は苛烈な展開になった事は分かるし、フランス解放までの道程を背景に素晴らしい作品になったのではないか。
脚色手法は原作にある要素を増幅していて映画オリジナルかつネミロフスキー作品である事を両立させている。朝日新聞の映画評では「補綴」と表現されていた。至極的確な言葉だと思う。
物語るということ
ユダヤ人への迫害の中で作品発表する場を失い、最後はフランス憲兵の手でドイツ側に引き渡されてホロコーストの犠牲となったイレーヌ・ネミロフスキー。手書きの遺稿にそれでも物語らずにいられなかった作家の本能を感じた。