Navy SEALsが出てくる作品は作戦の是非は描いていない。彼ら自身は与えられるROEに従って命令に応じた任務遂行するにすぎない。では誰がその作戦を命じているのか、またどのような体制になっているのか具体的な事例を挙げて説明を試みている。また無人機による対テロ作戦の実態がどのようなものであるかを描いたのが「アメリカの卑劣な戦争」である。
アメリカの対テロ戦争は秘密のベールに包まれている。本書も公開情報よりも関係者の証言や作戦が展開されているソマリアなどでの取材を通じてアメリカと戦場にされた国の治安・情報当局、そして敵とされた組織の実態が描かれていく。
本書で衝撃なのはブッシュ政権下よりもオバマ政権の方がよほど攻撃的だという点。
目標殺害作戦("Target Killing" テロリストとされる人物をリストアップして最終的に大統領の承認を受けて無人機や航空機、特殊作戦部隊によって暗殺する)はブッシュ政権よりもオバマ政権の方が多い。
ビン・ラーディン邸宅急襲作戦もブッシュ政権下ではなく、オバマ政権下で相手国の承認を得る事なく実施された点はこの種の作戦に対してあまり制限を課してない事が察せられる。
本書の最後に描かれるのは反アメリカ的な言動をイエメンで説いていたアメリカ国籍を持ったイエメン系アメリカ人とその息子の暗殺となっている。
この件が象徴的なのは海外においてアメリカを攻撃するテロ組織に対する攻撃だったはずが、海外にいるアメリカ国籍を持つ人物を裁判に依る事なく目標殺害作戦のリストに付け加えられた点にある。
対テロ作戦はあくまで戦争とされている。でも敵は国家ではなくテロリスト集団。本来は警察活動として展開されるべき事が戦争という事になるだけで一方的な殺害が合法化される。その基準がアメリカ国籍者に適用された事はある意味公平なのだろう。
なおアウラキ氏(上記で攻撃目標となった人物)に対する攻撃を阻止する為、米国内で訴訟も試みられているが、機密の壁に阻まれて裁判官にすら情報開示はされておらず苦言を呈されている話も出てくる。
なお現在の特殊作戦において重要な監視およびピンポイント攻撃手段となっている無人機MQ-1プレデターについてはウィッテル「無人暗殺機ドローンの誕生」(文藝春秋。原題は"PREDATOR:THE SECRET ORIGIN OF THE DRONE REVOLUTION")が開発黎明期からの無人監視機、そして爆撃誘導用レーザー照射機能の付加からヘルファイアーミサイルを搭載した武装型に至る道程を詳しく描いている。
武装型の開発は2001年9月前に佳境を迎えていて、9.11事件の発生によりアフガンでの実戦使用まで一気に進んだ。もともと米側が対テロ作戦を強化する方向でプレデターの武装化が検討されていたが、対テロ作戦での「暗殺」作戦の運用については当初慎重に検討されていたが、9.11事件によって急遽実戦運用に入った事で法的な懸念に対するハードルが下がって一気にクリアされてしまった感がある。
「アメリカの卑劣な戦争」で描かれている対テロ戦争はいずれ始まっていただろう。9.11事件が起きた事で躊躇させていたものが一気に吹き飛び一足飛びに進んで行ったのは確かでしょう。