2017年7月26日水曜日

In the future again

 あるアニメーション映画作品のオマージュというか世界観の解題予想を兼ねて。(最後に少し解説を入れておきます)……正確なところどうなのかサッパリ分からないですね。





 9月の最終金曜日の夕方、少し陽が傾いた頃、赤毛を三つ編みにした少し背が低い女性が古びた長距離バスでハイランド・シティのバスターミナルと呼ばれている市役所などと一緒になった木造2層の扇型の瀟洒な建物(これでも町一番の大きな建物だ。)に着いた。運転手にキャリングケースをバスの荷室から出してもらうとターミナル沿いの道路に設けられた普通車駐車スペースの歩道に転がしていった。

 しばらく待っていると先に帰省していたテッドの電動車が道路脇の駐車スペースの中へ頭から突っ込んできて彼女の立っている前の駐車スペースに止まった。昔の遺物を改造した電動小型トラックだ。車は古に作られたものを直して使い続けるしかない。そして古の技術は恐ろしく耐久性があったおかげで人類は未だに車を失わずに済んでいた。

「わりい。親父の手伝いがあって遅れた。」
車を降りると長身のテッドが荷台に彼女の荷物を積み込んだ。微笑むサンディ。
「ええんやよ。迎えに来てくれるだけで助かったし」
サンディが助手席におさまるとテッドは車をバックさせて駐車スペースから出した。

 車は町のメインストリートを走った。通りを一本入ったらもう自然豊かな山々に囲まれている。ハイランド・シティにしたところで高々人口5000人の町に過ぎない。電気は家々の屋根や庭に設置された風車、古の技術で作られた発電スレートで作られていた。道路沿いには二階建ての木造の家や商店が点在している。人口が少ないので町並みは総じてゆったりしている。

 私達は3年前のある災害で故郷を失った。州政府と町はその対応として隣町で郡の中心地であるハイランド・シティの近隣に集団移転地を用意、そこをニューレイク・タウンと命名した。人口300人。
3216年、文明は緩やかに衰退している。

 私達二人は高校を卒業した後、東にある50万人も人が住んでいる都会へと出て、この国の唯一の大学に進学した。文明は廃れつつあったけど、まだ知識の継承は大事だとみんなは信じていたから、子ども達の進学は積極的に推奨されていた。
 私達の故郷は世界でも例外的に子どもが多かった。それ故に何がそうさせたのか州政府も注目していて災害時に集団移転など推進してくれたけど、結局理由は分からず、その後子どもが生まれる人数も普通に戻っていった。

 世界の人口はもう10億人ぐらいしかいないらしい。海を越えての交流はほとんど途絶えていて、無線通信で国同士で情報交換している程度だ。交易家が電動/帆走船を使って国々を回っていて、それが最低限必要な資源供給を支えている。そんな滅び行く世界に私達は生きている。

 二人の車はバイパスに入るとすぐ長いトンネルに入った。こんなもの昔の人達はどうやって作ったのやら。これももう作れないものの一つだ。そしてテッドはそんな良い道路を制限時速内で車を走らせる。うちの親も彼の親ももっとスピード出すのにねえ。

「あんた、まだ気にしてるんやねえ。」
サンディは我慢しきれずテッドに思わずツッコンでしまった。
「ほうやて報道までされてあん時は町長さんからも事情聴取やてあったんやから。目立たんほうが安全や。テロって言われたんやぞ、テロって。もし露見したら撃たれるわ。」

 もっともテロって何の事か、保安官も散々調べてやっと意味を特定させたのだが。そんな事態は長らく起きてなかったのだ、法律自体は廃止されておらず公文書館の人が資料を探し回ってやっとそんな犯罪が昔はあったと分かったらしい。保安官の仕事だって普段は狩猟管理とかそんな事ばかりだから仕方ないけど。
ふとテッドの方を見ると窓越しに追い越し車線を保安官事務所の電動パトカーが抜いていったのが見えた。

「こっち帰ってくると何故かなー、よお見かけるんや。」
テッドがぼやいた。
「あの日の事より普段の行いやないの?」
つい、いじめたくなった。
「そんな訳がない事ぐらいおまえならわかるやろ!」
うん。幼馴染やからね。テッドとあの子の事はよおわかってる方やと思う。
「ごめん」
いじめすぎやね。



 車は淡々とトンネルを走る。
「あの年の9月は変な年やったね」
「9月?10月やなくてか?」
「うん。9月。あの子が日頃の縛りから離れたり戻ったり繰り返しやったやよね」
「ああ、あれか。マックスを殴り倒して見せたり。あいつ見かけ倒しやったな。」
「あんた、ああいう時のあの子が好きやったんやないの?」
「ん?でもあれは男の親友って感じやったなあ」
「そお?その割に顔、真っ赤やよ」
「親友って言うとるやろが!」
テッドのこういうところがかわいい。だからついいじりたくなる。いじめっ子かな、私は。



「ねえ、テッド。あの日、あの子の突拍子もない話の何を信じたん?」
私はずっと引っかかっていた事を思わず口にした。何故あの日の朝、あの子の言う事を信じたのか。私自身、あの子が父親の町長の説得に行くと言い出した事に驚いたので止めなかった。普段のあの子は父親を嫌っていた。とてもあり得ない行動だったのだ。だから信じた。なんというかこれを信じなかったら何を信じたらいいの?というぐらい重大な決意をあの子はしていた。
「そうやなあ。不思議やよなあ。……せや、久しぶりやし高校によろうか」
「ええよ。」

 車は旧レイクタウンへ向かう州道へ入った。彗星災害の影響でバイパスが新たに設けられた。といっても今の技術では古に作られた超耐久コンクリート道路は作れないので、昔ながらのアスファルト舗装が行われた。メンテナンスが行き届かないから雑草が隙間から顔を覗かせていて早くも老朽化が始まっている。

 対向車はほとんど来ない。このバイパス道路の一番の目的であるはずの旧レイクタウンの町は結局復旧を放棄してなくなったから無理もない。今、この道を走るのは林業関係者と野生動物ぐらいだろう。

 高校に近づくと荒れた道に変わった。州政府の「DON’T ENTER/立入禁止」のフェンス前に車を止めて二人は高校へと歩いた。空気が冷たくなってきた。

「懐かしいなあ。」
「あんた、まだ3年しかたってへんのにジジ臭いよ」
「せやかてあの日の登校がここでの日常の終わりやったんや。懐かしがるぐらいあるやろう」
「……せやね。せやったね。」

私は頷かざるを得なかった。あの日とは3年前の10月4日。レイクタウン最後の日。人によって奇跡、最良の日とも最悪の日とも言う。それは視点によって様々だ。

 そして黄昏時の世界の歴史に奇跡として名は残ったけど自治体としては無くなり日常からは早くも忘れられつつある。それが私たちの故郷。

 あの日、この町に隕石が落ちた。古の聖地、昔、湖だった窪地に隕石が直撃したのだ。高校はその向かい側、水を湛えていた湖の対岸にあり、折からの森林火災テロから落下1時間前に町が住民に高校への避難命令を出していて、全員がそのおかげで無事だった。
この時、高校は大丈夫だからと一人みんなを動かそうとした子がいた。いたはずだった。

……事が終わってふと気付くと、一人だけ消息が分からなくなっていた。でもそう信じているのは私達二人だけだった。



 私達は校庭に入り込むとよく座っていた今は枯れた芝生の所に行った。テッドがどこからともなく下に敷くものを出してきて広げてくれた。私が座ると彼も横に座って二人で空を眺めた。

「あんたが正しい。ここは懐かしいわ、やっぱり」
舌を出して笑おうとした。おかしい、なんで涙が湧き上がるのだろう。私は思わずテッドにしがみついて泣いた。テッドはそんな私のを黙って抱きしめてくれた。

 17歳の高校2年生、あの頃はまるでこの日常は永遠に続くと思っていた。いや、もう少しだけ続くと思っていた。それがある日突然断ち切られた。



 私が落ち着くと車での話の続きが始まった。
「車での話やけど、あの時のあの子は神懸かっていたよな。あいつ、何が起きるかは分かっていた。確信していた。」
「9月29日は何故か山に登っていたし、3日もまたフローラを振り切ってどこか出かけていって学校サボっていた。4日は何も持たずに登校してまず私達二人を、そしてクラス全員巻き込んでしまったし。そういえば髪の毛は バッサリ切ってきてたっけ。」
「思えば9月の男らしい方の子やったな、あれは。髪、前の方が良かったとか他人事のような、でも気に入らない事をやられたような軽い反応やったし。そういえばお前に話ししたっけ。森林火災テロの事。」
「あんたを筆頭に男子学生で山に時限発火装置を仕掛けた時の事?」
「そうなんやけど、それは言わんとってくれ。……森に行った時のあいつはもう普段の子やったんや。でもあの夜の事で確信している事はなんも変わっておらんかった。やらかす前にあいつに確認したんや。最後の引き返し点、太古のことわざで言うルビコン川やと思ったからの。で、本当にこれからやる事それでええのかって。そしたら私は見たって言い切りよった。だから信じたんや。二人を。」
「えっ?……二人?」
「俺には別人のようなあいつ、そして普段の様子に戻ったあの子。同じやったとは思えないんや。きっとあれは別々の人格や。」
「言いたい事はなんとなくやけどわかるわ。しんじへんけどね。」



 俺は二人とも好きやったんやな。今更気付いたって何の意味も持たんけど。そして絶対にサンディには知られてはならんけど。町の人達を高校に逃そうとした時、あいつは何か言っていきなり泣いた。
「あ、これは好きな人の事や。そういう奴がおるんや」
と直感で思うた。

 だから俺は鬼軍曹の面持ちで怒ってあいつをシティーホールに送り出した。色恋沙汰であいつが確信してるのやない事は信じとったから。ここであいつの心が折れたら全てが終わりやと思おうたから。もう俺たちじゃ支え切れん、間に合わん。町長や消防隊の助けはぜった必要やった。そしてあいつはやり遂げたし、その確信は今となっては信じたくないほど本物やった。

 そうしてあいつは姿を消した。いや、忘れ去られた。その事に気付いたのは俺ら二人だけや。そして俺らでも名前を思い出せない。でもや、あいつがいた記憶はおれとサンディの二人には確実にある。

 周りは、父親のはずの町長もあいつの妹だと思っていたフローラもみんな知らないという。下手に聞くとおかしく思われるからもうサンディと二人きりの時しか言えなくなった。

 あの日からいつも誰とも知れない人を探してどこかに他の世界へ行ってしまったんやないか。その誰かってあの日、俺たちを動かしたあいつ自身やったんやないか。あの日、姿を消したあいつ。何故かそんな気がする。

 歴史の先生が古の謎として「ムー」という古文書に書いてある事が歴史と一致しないあり得ない事ばかり書いてあって、学者たちの間で史実なのか問題になっていると言っていたけど、まさしくそんな感じやな。



 二人のあの子か。私もそんな気がする。あの子と言えば古からの巫女の家系の長女。そのせいか日常においては目立たない事を信条にして、少々の嫌がらせなら無視してやり過ごす事を選ぶ子やったやよね。
 それが人が変わったように積極的にやり返すあの子が現れて、みんなは目を見張ったけど、あの子には本当にハラハラさせられた。足の組み方とかスカート知らないの?という無防御ぶり。男子たちの目線ぐらい気をつけられるでしょうにって呆れて注意もした。でも、そんなおかしなあの子もやはりあの子自身やったとも思う。
 そしてそんなあの子が私達みんなを動かして町の人達みんなを救った。その直後にあの子は初めからいなかったかのように忘れ去られ、私とテッドの間でしか記憶しているものがいなくなった。

……ん、これじゃ、妄想でしかないわ。みんな疑うのも無理ない。でもこう考えると納得する自分がいる。二人のあの子がいたんだと思う。もう一人はきっとあの日の夜、彗星がどこかに連れて行ってしまった。会えるものならまた会いたいな。そう思わせる子やったよね、テッド。

 旧レイクタウンの山並みに日が沈んだ。まだ空は薄い赤いグラデーションが残っている。
「Lonely timeやね。」
「懐かしいな。大学でこんな古語言う奴おらんよなあ。そういえば文学の授業でMagical hourの話が出たのもあの9月やったな。」
「……文学の先生、懐かしいわあ。元気にしてるのかしら。……ねえ、そろそろ帰ろっか。」
そう言われたテッドは自然にサンディの手をつなぐと軽トラの方へと向かう。



 もう私はこの手を離さないんだろうな。腐れ縁やけど、離しちゃ行けない気がする。この気持ちがどこから来るのか分からないけど、あれだけの事を一緒にくぐり抜けた時、テッドがいなければあの子の事を信じきる事はなかったと思う。

 世界は儚い。手を離したらもう取り戻せないかも知れない。だからもう手離さない。そう心に誓いながらテッドの手を強く握ると握り返してくれた。あんたも私と同じ気持ちやって思ってええの?



 もう俺はこの手を離せない。何故だか分からない。幼馴染やからか。それとももう一人の幼馴染が決して振り向いてくれずどこかに去っていったからか。

 断じて違う。そうやない。あの日、三人を突き動かしたのはいなくなったあいつや。そんな俺たちを見捨てず信じてついてきてくれたのは、俺のでっち上げた作戦、いや俺を信じてくれたサンディやったからこそや。他の誰もが信じんやろ、あんな作戦。冷静に見て熱病にかかっていたとしか思えんわ。

 そんなサンディを世界の誰よりも大事にする奴はこの世界では俺しかおらんやろ。これが恋なのか愛なのか、なんて呼べばいいかなんて知らん。でもパートナーがすぐ側にいるのに気づいた時、その気持ちを無視するような奴にはなったらあかんのや。それだけはわかる。

 二度とこの手は離したらあかんのや。そんな事をしたら二度と出会えんかもしれん。そんな恐ろしい事は嫌やよな。なあ、サンディ。お前もそう思おとるやろ。

 そして俺は気付いたんや。あいつもそうやって相手を求めて追っていったんやなと。ちゃんとお互いを見つけられたんやろうか。俺たちにはもはや分からない事なんやろうなあ。俺も多分サンディもあの子らがちゃんと出会って心の底から相手のことをどう思っているか言い合えたんだと思いたい。そうじゃなきゃこの滅び行く世界でやってられんわ。



「なあ、サンディ。ずっと一緒に生きて行こうな。いつどうなるかわからん世界やから。だから俺たちには相方が必要なんや。」
「ええけど、あんた。その台詞早すぎない。手順ってもんが……でも、ええよ。それがあんたやし。」

 ま、いいわ。そんなあんたが私は好きなんやから。




(映画の世界観の予想概要)
 注意;「君の名は。」物語核心部について触れています。
 『映画「君の名は。」作品論:神話とその語り手と』に詳細を書いて乗せています。

・並列宇宙となっていて瀧と三葉の意思でそのような事が起きている世界に切り替わっている。その事を二人の主観意識は認識していない。

・三葉が変電所に行った後、彗星のイオンテイルの向きの違い、糸守上空俯瞰時の地形・方位(変電所爆発の時、神社は東側にある。(神社向こう側が飛騨市神岡町)、三葉が町役場近くに飛び出した時は神社は西側に変わっている) などで時空世界が異なる可能性が示されている。

・かたわれ時=二人それぞれの時空以外での邂逅。飛騨糸守における御神体の山稜=東京における山手線と四谷須賀神社。だとすれば、最後の春の日での二人の出会いはまた別の二人が出会う時空世界への移行とも取れる。

(本創作の設定)
・この作品の時空世界は多元宇宙の泡宇宙の一つに過ぎず、また同時に2000年代も3200年代もその前の800年代の泡宇宙も並列して存在しているという想定に基づく。
・1200年の間に多分アメリカ大陸で何かあったらしくこの地方にも避難民が入ってそのまま定着しているらしい。
・この世界で彼女を救った存在がどの時代の世界から来たかは未来のテッシ&サヤカ的なカップルは知らない。(同じ年代でなければならない理由はないと思う。)
・このテッドとサンディの世界では彗星事故の後の3年間の間に彼らを救った「二人」が別の時空世界で再会する事で消え去っている。その事でこの世界から彼女の存在が過去に遡って消えた。何故か二人にはその存在の記憶だけは残された。そういう「後日譚」を描いてみた。